#09 二人の想い 後編
学校に着いて教室に入ると、隣の席の
「もしかして、熱あるの?」
「………え?」
紅音ちゃんの前髪を上げて、おでこに触れてみる。俺が風引いた時、
「ちょ、は、
「え……今、春彩さまって言った?」
「こほんっ! き、聞き間違いですッ! だ、だれがあなたのような………そ、そのゴミ様に」
ご、ごみ様って。上げているのか下げているのか……。周りの生徒たちがザワザワし始めた。
「碧川さんがインキャと……」
「紅音さまがキモオと?」
「おい、あいつ誰か殺せッ」
「ふっざけんなよッ」
み、みんな怒っている。ああ、紅音ちゃんって人気者だから。そうだよね。みんな大好きなんだよね。俺が幼馴染じゃないから怒ってるんだよね。おでこに触っちゃったから。
————エエッ!?
黒いオーラを
茉莉に気づいたみんなは、急に黙り込んだ。あの顔は、普段クラスの中で絶対に見せない。あんな顔していたら、彼女にしたい女子ナンバーワンになれるわけ……いや、待って。ちょっと。紅音ちゃんが負けじと、茉莉を睨み返している。ど、どうしたの。
「私、幼馴染が無敵属性なんてオワコンだと思っていますから」
「あら。歌姫なんて言って、持て
「へ、へぇ。白詰さんは、真の愛が分かるのね? 私が心夜さまを好きな理由は見た目だけじゃないから。心夜さまは私に————」
「そ、そんなの義理に決まっているでしょ。春彩は今でもわたしのこと———」
「厚かましいと思わないんですか? 毎日、春彩さまの気持ちも考えないで、自由を奪ってベタベタして————」
「あなたに何が分かるの? 春彩のことを守るって決めた日から、ずっと彼のために」
シーンとする教室。教壇には先生が立っていて、何度も咳払いをしてる。茉莉と紅音ちゃんは立って言い合っているけど、まったく先生に気づいていない。
「白詰さんは少しおかしいんじゃないでしょうか?」
「碧川さんだって、手のひら返して。おかしいのはそちらではないのかしら?」
いよいよ、先生が教壇から降りて、二人の間に入ったよ。先生の咳払いが大きくなっていくよ? やばいんじゃない!?
でも、睨み合ったままの茉莉と紅音ちゃんは全然動じない。
「お前ら。時計を見ろッ! あとで職員室まで来いッ!」
やっと黙ったけど、二人とも座っても睨み合っている。なんで仲良くできないわけ。
数学の授業中も、世界史の授業中も、なんだかすごく仲が悪そうに睨み合っているし。うん、よし。仲直りしてもらおう。
やっと昼休みになった。授業は何言っているか分からないから、退屈というよりも暗号を脳に送り込まれているみたいな感じになっちゃっているんだよね。しかも、昨晩寝ていないから、目を開けているのが辛かった。
「茉莉~~~お昼一緒に食べよ」
「う、うん。もしかして……碧川さんも一緒なの?」
「だめ? でも、今日は付き合って」
「……えぇッ!? 今日だけだからね! わたしがいなければ二人きりなんでしょ。もう、仕方ないッ!」
すごく嫌そう。それに大きな溜息を吐いちゃって。そんなに毛嫌いしなくてもいいのに。紅音ちゃんだって、話せばいい子だって分かるのに。
「紅音ちゃん~~~約束通り、一緒に食べてくれるよね?」
「白詰さんも一緒なのですか?」
「うんっ! だめ?」
「……は、春彩さまがそうしたいのなら——まるで、毒ガスの中で食事をする気分だわ。でも、白詰さんと二人きりにさせ——仕方ないですね」
やった。うまくいきそう。
昨日、紅音ちゃんに教えてもらった元ソフトなんたら部の部室に来た。紅音ちゃんと茉莉は二人とも、俺の両脇で俺の腕にしがみつくの。だから、廊下を歩いているときに、男子にも女子にも凝視されちゃった。なんで今日は、二人ともこんなにくっつくの。逆セクハラで逮捕されても知らないからね。
「はい、お弁当。味はちょっと微妙かもしれないけど、一応、食べられるから」
「え……こ、これを春彩さまが?」
「碧川さんのお口には、もったいないくらいだけどね」
「白詰さんのほうこそ、春彩さまのお料理を食べるなんて、お料理が可哀そう」
俺を挟んでいがみ合うのはやめて。耳が痛い。
お花見のお弁当みたいって茉莉は紙皿を家から持ってきたんだけど、それが正解だった。重箱に入ったお弁当を割り箸で一つ一つ取ってあげる。む。待てよ。ここでどちらに先に渡すのかで喧嘩になるのは目に見えている。頭の悪い俺でも分かる。
そこで、紙皿に取った料理を一旦、長テーブルの上に置いて、次の紙皿に料理を取る。それで、「好きな方を取って」と二人に告げると、互いに顔を見合わせた。だけど、文句を言わずに二人とも皿を手にしてくれた。
「ねえ、春彩。碧川さんにシューマイあげたら?」
「あ、うん」
「……?」
茉莉がそう言うからシューマイを取って、お皿に置いてあげた。紅音ちゃん、眉根を寄せて茉莉を睨んでるし。それで、一口パクっとシューマイを食べたら……。
「うぐぅ……ちょ、ちょっと、なんでシューマイにワサビてんこ盛り仕込んでいるのよッ!」
「え……ワサビなんて俺——」
「は、春彩って、記憶喪失だから間違っちゃったのよね。気を付けて。間違って毒が入っているかもしれないから」
え、これ毒入ってるのっ!? お、俺、記憶喪失で毒を混入しちゃったのッ!? ど、どうしよう。
あ、あれ。茉莉が獲物を狙うヒョウのような目をしている。紅音ちゃんは涙目になっちゃった。ワサビ間違って入れちゃったんだ……どうしよう。
「な、なにが『見た目もさることながら、性格の良さは誰にも引けを取らない』よッ! 悪魔みたいな顔して、こんな嫌がらせまでしてッ!! 春彩さまがこんな姑息な手を使うはずないじゃないッ!」
「春彩が冷たい女日本代表の碧川さんを毒殺したい気持ち分かるわぁ」
もう。こうなれば……シューマイはすべて俺が食べるっ! うげぇ。鼻が、鼻がやばい。
「ちょ、ちょっと。春彩っ!?」
「は、春彩さまッ!?」
一気に五つ食べたら、鼻が大変なことに。前が見えないほど涙で滲む。
「二人とも……いい加減にしないと、本気で怒るからなッ!!!」
久々に怒った。すると、二人ともしゅん……っとしちゃって、「「ごめんなさい…」」って謝ってくれた。
『碧川さんのせいだからねっ』
『そもそも、白詰さんがくだらないイタズラするからでしょっ』
コソコソと話す二人に、キッ! と俺が睨むと、二人が大人しくなった。
気を取り直して紙皿に料理をよそう。仲良くしてほしいんだけどなぁ。
「おいしい……おいしいっ! すごくおいしいですっ」
紅音ちゃんがそんなに喜んでくれるなんて、嬉し……え、泣くほどっ!?
「……生活苦で食べられないんでしょ。仕方ないから、たまにお弁当作ってあげる。恩に切ってよね」
なんだかんだ言って、茉莉はそういう人。紅音ちゃんとケンカする割には、困っているのを知ったら助けちゃう。俺が、茉莉を大好きなのはそんなところ。
「……くっ! あなたに助けてもらうくらいなら、飢え死にするわよっ! で、でも、残り物なら……食べてあげてもいいけど」
「素直じゃないね。でも、春彩には指一本触れさせないからッ!」
「それは保証できないわ」
それでまた睨み合う。まったく……。
二人の想いが俺には理解できないよ。
———————
★をいただければ、わたし、月平は————ぐふっ!
★とかどうでもいいから、さっちょんの出番増やすように作者に圧力かけてっ! ねえねがしゃしゃり出すぎで、出番がないの。え? 碧川紅音? 誰それ。そんなミジンコ歌手知りませ〜〜んっ!
応援コメントは、さっちょんの出番を増やせって、埋め尽くしてね。あ、レビューのタイトルは【さっちょんが可愛い】とか【さっちょん神】とか、【さっちょんのための物語】って書いてねっ!!
聞いて聞いて。登場が第二幕なの。酷くない。ねえねはあんまり家に帰ってこないし(以下略
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