#08 二人の想い 中編


 タクシーを呼んで、二人で乗ったのは良いけど、どうやってお金払うんだろ。茉莉が降りるときに精算したのを見ると、運転手にお金を渡せばいいんだよね。リセットされたメーターがまた動き出して、家に着く頃には、2,500円? くらいになっていた。



「ふぅ。なんとかお金払えた。勉強しておいてよかったなぁ」



 お金払えたのが嬉しくて、つい言葉が漏れちゃった。さて、料理の勉強しなくちゃ。茉莉まりは、無理せずにできる範囲でいいからね、なんて言ってくれたけど……。



 冷凍食品をレンジで温めればいいんだよって教えてもらったけど、俺は知ってるぞ。茉莉は冷凍食品を使わないで、手作りしていることを。だから、俺もその水準までがんばろうと思う。これは、紅音あかねちゃんへの思いと、茉莉への日頃の感謝だと思っている。できる限りがんばってみるんだっ!




 だが、予想以上に難解で、読めない漢字まで出てきちゃったりして。回鍋肉ってなんて読むんだろう。あと、七味唐辛子。ななあじとうしんこ? そんなの聞いたこと無い。だから、それもスマホで調べるの。そしたら、しちみとうがらし、って出てきた。便利〜〜〜。かいなべにくは、ホイコーローか! でも、ホイコーローってなんだ……?




 そんなことをしている内に、時計は三時を過ぎていた。これは……眠れないかも。





 ピンポーンって玄関がなった。それで、俺が開けに行く前に鍵が回る音。ああ、茉莉だ。俺がいつも起きないから、こうして合鍵で入ってくるんだよね。


 当たり前のように階段を上がっていく茉莉を追いかける。俺の部屋に入っていく茉莉の背中を追うと、彼女は「あれっ!?」ってキョトンとしている。



「茉莉〜〜〜おはよっ」

「うわあああ。びっくりしたっ! ちょ、ちょっとどうしたのっ!?」

「え。いや、料理していたから」

「待って……夕べと同じ服………? もしかしてッ!?」

「あ、いや、少しウトウトはしたから大丈夫」

「だ、大丈夫じゃないよぉ。睡眠不足は脳にも良くないからって先生も………」

「一日くらい大丈夫。それより、見てよ」



 茉莉の腕を引いて、台所に連れていく。ダイニングテーブルの上は荒れ放題。小麦粉は溢れちゃっているし、油は飛び散っているし、醤油はこぼれているし。でも、肝心の料理は完成したんだよね。



「ま、待って………こ、これ、全部作ったの?」

「うん。冷凍食品がおいしいのは知ってたけど、やっぱり茉莉みたいに愛情込めて作りたかったから」

「からあげ………卵焼き……煮魚ッ!?」

「うん。それに、チキンライスに、ナポリタン。あとミニハンバーグも。ひじきの煮物も作ったし、シューマイもなんとかできたっ」

「………春彩。やっぱり変わっていないね」

「本当はもっと作りたかったんだけど………時間切れみたい」

「あの頃みたいに………なんでもやり遂げちゃう………」



 また茉莉がセクハラしてくる。あ、茉莉はトッケン階級だったんだ。でも、なんで抱きしめてくるんだろう。お弁当作っただけなのに。



「あ、これお弁当箱に詰めなくちゃいけないんだよね。間に合うかな」

「じゃあ、詰めるのはわたしがするから。春彩はシャワー浴びてきてね。うん、よく頑張ったね。イイコイイコしてあげる」



 背伸びして俺の頭をなでなでしてくれる。それにしても茉莉は泣き虫だなぁ。



「あ、そうだ。お弁当箱は三つね」

「え……? なんで? どういうこと?」

「紅音ちゃんに、お弁当作ってきてあげるって約束したんだ」



 ふぁッ!? 


 

 草原をかけるウサギのように爽やかで可愛らしい顔だったのに、地獄の血の池で人間を沈める鬼のような顔にヘンボウしちゃった。な、な、なんで。



「へ、へぇ。昨日あれほど言ったのに。そういうのを浮気って言うんだよね? あれ違う!? 確か、わたし言ったよね……碧川紅音あおかわあかねさんだけは、絶対ダメだって」

「ち、違う……こ、これは」

「何が違うんでしょう。わたしのために——なんて大義名分を掲げて、実際は碧川紅音さんのために作ったお弁当なんだよね。そういうの——」

「違うって。紅音ちゃんは………」

「人間のクズって言うの。いい? あの女だけはダメだからね」



 クズ……つまり、俺はクズ人間。ゴミとどう違うんだろう。ゴミ人間はよく言われているけど、ゴミの片付け上手だと思っていた。でも、クズは、紅音ちゃんにお弁当を作ってあげる人のこと……?




 ————葛餅くずもちのクズ!?




「待って。デザートは作っていないよ? クズ餅って餅を作るところからっ!? 間に合わないよぉ」

「ん? よ、よく分からないけど、とにかく、碧川紅音のお弁当なんていいのッ! 毎日高級食材を使った上から目線弁当しか食べてないんでしょ。どうせ、校門の外に高級車が停まっていて、その中でジイとかが『今日のお料理は、フランス西部のなんたら肉です』とか言って、食べてるんでしょ。ああ、腹が立つ」



 そ、そんなに力込めて怒らなくても。クズ餅なんて作れなかったんだから仕方ないじゃん。それに、紅音ちゃんには、お弁当作ってくれる人がいないあわれな子なのに。ジイどころかバアもいないよ。



「紅音ちゃんは、誰もご飯を作ってくれないからッ! ゴルフボールくらいの大きさのおにぎりしか食べられなくて、可哀想なんだ」

「…………え?」

「だから、俺……好きとかそういうの抜きにして、可哀想な人を助けてあげたいだけなんだよ。茉莉が俺にしてくれるみたいに」

「………まさか。昨日の件といい……ボロボロのバッグに……」



 なんだか考え込んじゃった。このきに、シャワー浴びに行こう。あれ、でも、なんで紅音ちゃんだけはダメなんだろう。他の子は良くて紅音ちゃんはだめ?




 シャワーを出て、学校に行く準備ができると、茉莉が料理を弁当箱に詰めてくれた。表情は明るい………いや、なんだか悪い笑顔浮かべているような。冷たく笑うってやつ?



「な、なんだか……茉莉、へんなオーラ出ていない? すごい怖いんだけど」

「うん? 気のせいだよ。それよりも、お弁当箱大きくなっちゃった。リュックの底に入れてね」

「う、うん」



 茉莉……絶対に何かたくんでいるよね。頭の悪い俺でも分かるよ。







————————

皆さん、お願いですから★くだ————ぼげぇッ!(落とし穴に落とされた



 諸君ごきげんよう。碧川紅音です。どうやら、にっくきゴミ女の白詰茉莉が、なにやら企んでいるみたいなの。春彩さまの親切心の裏に隠れて、きっと私を亡き者にするつもり。


 いい、次回は絶対に私にヤツの悪巧わるだくみを教えて。こっそり応援コメントに書いて。お願い。


 ついでに、ページを↓に捲って、+で★を入れて。そしたら、脱ぐわ。え、私じゃないわよ。脱ぐのは白詰茉莉よ。それと、レビューに悪口を書いたら怒るわよ。白詰茉莉の悪口なら、4千字くらい書いても構わないけれど。


 誰がヒロインか、そのうちハッキリするわ。私の応援コメントで埋め尽くしてっ!!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る