#03 幼馴染は小動物系ペット? それとも観賞用ペット? 前編

 心を奪った……心夜しんやのやつ。俺の幼馴染の小動物系ペットである茉莉まりの心を奪っただなんて。


 ダンッと机を叩いた。止めておけばよかった。手のひらがすごく痛い。ジンジンする。



「ゆ、許せない……」

「え……だ、誰を許せないのかな?」

「心夜のやつ、俺の大事な……」

「大事な?」

「大事な……」



 握った両手の拳で唇を隠して上目遣いをする茉莉を見ると、胸がキュンキュンする。可愛すぎる。ますます心夜が許せないッ!



「大事なペットを……俺の大事なペットなのに」

「は、春彩………お前、アホだろ………そんなこと白詰しろつめに言ったら」

「………うぬぬ……もう春彩はるやなんてだいっきらいッ!!」



 な、なんで怒られたの………。そ、そんなに乱雑に弁当箱片付けなくても。ああ、待って。



「茉莉、ちょ、ちょっと、茉莉〜〜〜なんで」



 キッと睨まれると、何も言えなくなってしまう。小動物だと思っていたのに、まるで縄張りを荒らされた猫みたい。今にも爪を立てて引っ掻いてきそうな猫。


 駆け出す茉莉の背中を見ていたみつるが、「お前が悪い。ペットなんて言ったら怒るだろ」とあきれながら言ってくる。そうか、ペットという言葉が悪かったのか。



 家畜って言えば良かったのかな……。あ……。



「うん。そうだよね。ペットじゃなくて愛玩動物って言えば良かったんだよね。謝りに行ってく————」

「待て。なんでこういうときだけ語彙力あんのお前。それ一緒の意味だから。そうじゃなくて、ペットって言葉を人間に対して使って良いのは、AVとかエロ漫画とかの中だけだからな。いいか、健全な男子高生が女子高生をペットにしていたら、それこそ、お前、炎上もいいところだぞ」

「そ、そうなのか。つまり、茉莉がいくら小動物系だからって、ペットという言葉を使ってはいけないってことなんだね?」

「そうだな。それよか、心夜の名前聞いただけで、あの反応だぞ。確かに、茉莉がブレディスのファンだってことは知っていたけど、さっきの反応はアレだぞ」



 教室の方を満が見るから、俺もつられて見る。すると、友達と廊下で話す茉莉は笑顔に戻っているみたい。俺の前ではあんなに怒っていたのに。酷いよ。



「恋だな………」

「……茉莉が恋をしてる?」

「ああ。心夜に恋をしている。つまり、紅音あかねと茉莉はライバルってことになる」



 でも、相手はテレビとかニューチューブの中の人だよね。そんな人に恋なんてしても、実るはず………あ、頭の悪い俺でも分かった。



「紅音の方がチャンスをものにしやすいってことかっ!?」

「ど、どうした。春彩のくせに冴えてるな」

「……確かに記憶喪失だけど。それくらい分かるよ。それでなに?」

「俺はてっきり、春彩のことが好きなのかと思っていたんだよな。残念だったな。お前、これで負け組決定だわ。ま、お前みたいな陰キャが勝ち組なわけねーよな。普通に考えて」

「ま、マケグミ……」

「やっぱり、茉莉も普通の女子高生だわな。イケメン大好き。流行りには敏感ってとこ。例え、心夜と結ばれなくても、そっち系が好きってこと。あの反応からすると、お前に対して、幼馴染の義理しかないな」

「……マケグミ。マケグミ」



 マケグミってなんだ。マーケティンググミ?




 教室に戻って席に着くと、となりの紅音ちゃんが雑誌を見ているの。プレディスが表紙の雑誌。あれ、なんだか古いよ。紅音ちゃんの机の前で屈んで、下から覗き込んでみた。うわあ。やっぱりそうだ。去年の5月号じゃん。お金なくて、新しいの買えないのかな。買ってあげたら、『春彩くん、なんて優しいの大好きっ』って言って抱きしめてくれたりして。


 あれ………あまり大きくない。いや、下から見ているからだ。上から……。立ち上がって雑誌と胸の間に顔を入れると…………やっぱり。



「紅音ちゃんって…………おっぱい小さい……茉莉よりも小さい……寂しい」

「あなた全身の皮剥ぐわよ。それと、屈んでパンツ覗くのやめてくれる? 本気でセクハラで職員室連れて行くわよ」



 しまった————ッ! しゃがみ込んだときに、パンツ見ればよかったんだ。じゃあ、もう一度……見えないじゃないか。紅音ちゃん嘘ついた。足を下げられた挙げ句、太ももの上にかばん置くなんてひどいッ、ひどすぎるッ!



「あなたわざとでしょ。ちょっと来て……」



 ダニとかではない。ミジンコでもない。紅音ちゃんの俺を見る目は、もはやゴミとかを見ている目じゃないよ。毒だ。うん、毒とか危険なものを見ている目。俺の制服の袖を摘むのに、ハンカチ使っちゃっているし。い、いや、クリーニング定期的に出しているよ? 茉莉が。



「ち、違う。パンツは見ていないよ。見えなかったし。そうじゃなくて、雑誌が気になって」

「言い訳は無用。あなたがなんと言っても、セクハラに変わりないから」



 いつの間にか、クラス中の注目の的。みんなヒソヒソと話しているけど、俺みたいな肝っ玉据わった、インターナショナルキャラが紅音ちゃんのパンツ覗いていたって話しているのかな。きもいとかいんきゃとか、ずっと言われているけど。だって、パンツは男のロマンだって満が言っていたし。ロマンを求めるのが男だって映画で言っていたよ?



「待って。碧川さん待って。春彩は確かに変態だけど、ここはわたしに免じて」

「ま、茉莉〜〜〜」

「白詰さん、あなたには関係ないでしょう。この男を野放しにできないわよ。だって——」

「分かってる。だけど、恐らく、春彩はその雑誌が気になったんだと思う」

「………なんで?」

「あなたがブレディスの心夜さんを好きだってことは知ってるし、それは周知の事実だと思うの。でも、もし、心夜さんが、アイドルグループの雑誌を読んでいたら、碧川さんはどう思う?」



 紅音ちゃんは茉莉をじっと見て、首を軽く横に振った。短いため息をついて、椅子に座る。俺の制服の袖も離してくれた。



「春彩は、碧川さんのファンなの。だから、すること成すこと気になっちゃうの。それでいて、記憶喪失なの。だから許してあげてくれないかな」

「……今回だけよ」

「ほら、春彩も謝って」

「ご、ごめん」



 となりに立つ茉莉は、俺が今までに見たことのないような顔をしていた。



 殺気立っている、というよりも、汚物を見るような目で紅音ちゃんを見ていたんだ。









——————

春彩の大逆転までもう少し。茉莉と紅音がデレます。特に紅音。それまでお付き合い下さい。




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