ヒロインの笑顔を取り戻すのは主人公の特権


「いらっしゃいませー!」

「何名様でしょーかー!」


「二名」

「界守」

「今日は貴方も付き合いなさいな」


「はい」

「何処までも」

「ご一緒させて頂きます」


「うわぁメイドさんだぁ!」

「あぁ、ごめんなさーい!」

「それじゃお席にご案内しますねー!」


「……元気が良いわね」


「そうですね」

「どうぞお嬢様」

「席を」


「ありがとう」

「界守」


「………」

(物憂げなお嬢様)

(きっと自分の未来を懸念している)

(慰めの言葉を掛けても)

(お嬢様は優しいから)

(受け取って元気なフリをするのでしょう)

(……従士として)

(これ程歯痒く感じてしまう事は無い)

(私では)

(お嬢様の心を晴らせない……)

(あぁ……私は)

(無力だ)


「ほらほらっ!」

「お兄ちゃんっ!行って行って!」


「あぁクソッ!」

「行きゃぁ良いんだろッ!」

「行きゃあよ!」

「ヘェイ!お客サァン!」

「ご注文はお決まりで、ェ?」


「………え?あ。の」

「八峡、さま?」

「え?……なぜ、女装を?」

「え……」


「………」


「あ!お兄ちゃん!!」

「無言で席から離れたらダメでしょ!」

「注文ちゃんと聞いて!」


「あ、やめろッ!」

「知り合いだッ!この格好は死ぬっ!」


「だーめ!強くなりたいんでしょっ!」


「ぐッ!畜生ッ!おいッお嬢!」

「注文なんだよ注文!」


「あー!お兄ちゃん!!」

「そんな聞き方はダメッ!」

「さっき練習したでしょー!」


「ぐッ!あぁクソッ!やりゃあいいんだろッ!」

「―――いらっしゃいませこんにちわぁん!」

「お客様ぁん、ごちゅーもんはお決まりになりましたぁん?」


「――――――」

(なんという悲劇)


「………く、ふ」

「ふ……ん……」


「……お嬢様?」


「ふ、く」

「く、ぷふ……」

「ふ、あ、はっ」

「だ、……だめ、もう」

「我慢出来なぷふぅっ!」

「あはははっ!はっな、や、八峡っ!」

「なあに、その恰好っ!あはははっ!!」

「ひ、ひははっ!ははははっ!」


「お、お嬢様……」


「………殴って良いかお嬢?」


「お兄ちゃん!」

「お客様なんだからダメっ!」


「はははっ!ひ、ひーっ!ひひゃっははっ!!」

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