悔いなき選択



「……むかし」

「界守が行きたかった場所があるの」

「其処は喫茶店で」

「メイド服を着た可愛らしい女の子が働いてる」

「おすすめはフレンチトーストで」

「ミルクとタマゴを染み込ませたトーストの上に」

「バターを溶かしてバニラアイスを乗せて」

「はちみつをたっぷりと掛けた甘味の塊」

「本当だったら」

「先週か、先々週辺り」

「予定が合った日に一緒に行く話だったの」

「……もう、その約束は果たせないけれど」

「せめて」

「彼女が食べたかったモノを食べて」

「悔い無くお婆様の話を聞きに行きましょう」


「……承知しました、お嬢様」

「例えどの様な決断になろうとも」

「私は、お嬢様とご一緒致します」


「……どうなるのかしらね」

「贄波家の名を剥奪されるのかしら」

「それとも」

「これ以上恥を晒さない為に」

「幽閉でもするのかしら」

「どちらにしても」

「きっとお婆様は」

「私が術式を使えない事を知っているわ」

「術式を使えなければ」

「贄波家を名乗る資格なし」

「なんていうつもりよ」


「……もしも」

「お嬢様の想像通りとなれば」

「……お嬢様は」

「如何なされるおつもりで?」


「……それが贄波家の意向ならば」

「それに従う他無いでしょう」

「私は贄波家の人間として」

「最後まで」

「役目を全うするだけ」

「誇り高くコトを終えるわ」

「まあ」

「その誇りも剥奪されるけれど」

「ふふ」


「………お嬢様」

「到着しました」


「そう、ありがと」

「じゃあ、入りましょうか」

「静月が食べたかったモノを食べに……」

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