贄波の璃々として


「ふーっ……ふーッ」


「やっと笑うのを止めたか」


「く、ふふ」

「八峡、その頭に付けてるのなに?」

「ぷふーっ!」


「メイドキャップだよ!」

「あぁクソッ」

「マジで最悪だッ」

「こんな様」

「知り合いに見られるなんざ」

「笑いものだぜッ」


「べ、別に、八峡」

「良いんじゃない?」

「にあって…くふッ、ふっ、くく……」

「似合ってる、わよ?」

「………」

「ひ、ひぃ!」

「ダメェお腹痛いッ!」

「はは、八峡、もうやめてッ」

「その顔を私に見せないでぇ!」


「ゲラり過ぎだろ……」

「はぁ……おら」

「注文しろよお嬢」


「え?あぁ、そうね」

「えっと、フレンチトースト二つ」


「はいよ」

「……たく」

「そんな馬鹿笑い出来るんなら」

「一応回復したって事で良いんだよな?」


「え?あ、えぇ……」

「そうね、回復はしたわ」

「………貴方のお陰ね」

「ありがとう、八峡」


「……お嬢」

「……なんか気持ち悪ィな」

「素直にお礼を言うなんてよ」


「あら?」

「私は素直な人間なのだけれど」

「その言葉は聞き捨てならないわね」


「あー」

「まあお嬢だからな」

「傲慢な所が目に余ったからよ」


「私は贄波家の人間ですもの」

「他の人間よりも優れているのは当たり前……」

「なんて、何時もならそう言うのでしょうけど……」


「……あ?」

「んだよお嬢」

「マジに調子悪いじゃんかよ」

「なんかあったのか?」


「……そうね」

「八峡」

「私が術式」

「使えないのは知ってるわよね」


「あぁ」

「え?まだ使えないのか?」


「えぇ」

「完全なスランプ状態」

「それに加えて」

「任務で怪我をしてしまったわ」

「これ以上無い失態」

「食事が終わったら」

「お婆様の所へ行って」

「今後、どうするかを話し合うの」


「はァん」

「どうするかって」

「どうなるんだ?」


「まあ、良くて」

「幽閉でしょうね」

「恥を晒さぬ様に」

「叔父様と同じ地下牢にでも閉じ込められるのかしら」

「そして其処で」

「跡取りを生む為の準備をする」


「……あー、なんか」

「嫌だねぇ、辛気臭い」

「祓ヰ師ってのはこう」

「ジメジメしてんのが嫌だわ」


「そういうモノよ」

「祓ヰ師と言うのは」

「自分の利益の為だけに」

「家系を守る為に血族を犠牲にする」

「少なくとも私の家は」

「家系を守る為に生きている」


「……なんつぅか」

「らしくねぇなお嬢」


「……私?」


「術式が使えなくなった」

「それだけでこの世の終わりか?」

「俺が見たお嬢は」

「術式が使えなくても敵に立ち向かった」

「凄ェ奴だろ」


「……それは」


「俺は其処まで立派な家系なんざねぇ」

「だからお嬢の気持ちも分からねぇ」

「それでも」

「なんだかんだで」

「立ち上がるんだろ?」


「……買い被り過ぎよ」


「それに」

「良い機会じゃねぇか」

「家系から見放されたんなら」

「後はもう、家の事なんざ気にしなくても良い」

「引きこもりが巣立ちするんだ」

「守るモノが無くなって」

「縛られるモノも無くなった」

「贄波家の璃々じゃない」

「贄波の璃々として」

「自由に生きれるじゃねぇか」


「………」

「そう、そうね」

「……ふふ」

「ねぇ界守」


「はい?」


「やっぱり」

「お婆様の元へ行く前に」

「此処に来て良かったわ」

「……八峡」

「注文はキャンセル」

「先に用事を済ませてくるから」


「そうか」

「……なら」

「もう来るんじゃねぇぞ?」

「この店によ」


「いやよ」

「貴方の姿を見る為に」

「また来るから」

「ちゃんとした接客で応じて頂戴な」


「それが嫌だから」

「来んなって言ってんだよ」

「……はぁ」

「お嬢」

「立ち直ったんなら」

「今言っとく」

「俺はお嬢に救われた」

「感謝してる」


「……わたしも」

「貴方に救われた」


「あ?」

「んだよ」

「小さい声で喋るなよ」


「なんでもないわ」

「そうね、感謝」

「何度でもしなさいな」

「……じゃあね」

「八峡」


「……別に」

「俺は何も」

「救ってねえよ」

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