永犬丸統志郎離脱


(はぁ……)

(界守ったら)

(本当に何を言うのかしら)

(絶対にそんな事)

(あり得ないのに)

(……界守があんな事を云うから)

(少し、意識してしまうわ)

(はぁ、本当に)

(あのエロメイドは……)

(……あ)


「……おや」

「御三家の」


「……何故」

「貴方は何時も」

「服を着ていないのかしら?」

「永犬丸」


「服は嫌いでね」

「拘束されている様で」

「好きになれないんだ」

「それじゃあ」

「我が友……」

「聞こえているかどうかは」

「分からないけれど」

「これで」

「さよならだ」


「貴方」

「何処かにでも」

「出かけるのかしら?」


「……実はね」

「これからボクは」

「宗家の元へ行くんだ」


「宗家?」


「ボクが居る家は」

「学園に近い別荘地だからね」


「それで」

「戻って何をするのかしら?」


「ボクの父を殺すんだ」


「父……」

「自分の肉親を殺すとでも言うの?」



「そうだよ」

「我が父は」

「犬憑の影響でね」

「元から人格が獣寄りなんだ」

「屋敷に監禁しても」

「獣の力で破られるから」

「現在では」

「私有地の山で放し飼いをしている」

「けれど」

「もう寿命であるらしい」

「肉体が禍憑に犯されて」

「所有権が完全に入れ替わる」

「父の側近が言うには」

「今月の満月の日に」

「完全に獣と成るのだと」

「流石に父は強い」

「だからボクも本気を出さなければならない」

「けれど、もし本気を出せば」

「ボクは二度と人には戻らない」

「永遠に、獣として生き続ける」

「その道をボクは選んだ」

「選んでしまったんだ」

「だから、少なくとも」

「ボクは人として」

「永犬丸統志郎として戻る事は無い」

「……だからさよならなんだ」

「我が友は何れ意識を取り戻すだろう」

「けど」

「其処にボクは居ない」

「彼の知るボクは何処にもいない」


「……そこまで」

「その男に執着するのね」

「私の知る限り」

「その男は……」

「決して良い人間、だとは言えないわ」

「なのに」

「そこまで貴方は」

「どうして彼を慕うのかしら?」


「ボクは前に一度」

「幼少の頃」

「我が友と出会っている」

「その時ボクは」

「彼に救われたんだ」

「彼はボクの為に涙を流してくれた」

「ならばボクは」

「その涙の為に応えただけなんだ」

「これから先」

「彼の人生に」

「ボクが居ないと思うと」

「少し心苦しいし」

「寂しくも思う……けど」

「あの日、幼少の頃」

「ボクはもう彼とは二度とは会えない」

「そう思っていた」

「だけど」

「今一度、こうして会う事が出来た」

「奇蹟は現実となった」

「だから」

「これ以上の奇蹟は望まない」

「まあ、そういうワケでね」

「ボクの話を聞いたからには」

「キミにお願いしたい事がある」


「条件って」

「なにかしら?」


「簡単な事だよ」

「もし」

「我が友が目覚めたら」

「……さよならと、伝えてくれ」


「……いいわ」

「それくらいなら」

「伝えてあげる」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る