第3話 花音ちゃんは二人の大人とゲームをしています

 「…だ…俺…ま…だ!」

 「…ま…い…」


 近くで喧嘩でもしているのか。かなりうるさい。そして声が響く。ガンガンと響く声に私は瞼を開いた。


 「くそっ! こうだ! ここで…」

 「させるか! オラオラオラ‼︎ ははは! やっぱり僕がまだ強いみたいだな!」


 イー君と知らない人がゲームをしていた。

 え? ちょっと状況が見えないんだけど…。一体どう言うこと?


 「ハマー! もう一度勝負だ!」

 「いいだろう。受けて立とう!」


 私を放置してゲーム…だとぉ?

 沸々と湧き上がる怒りが爆発する。


 「あなた達ぃ〜? 何してるのかなぁ?」

 両手で二人の頭を鷲掴みしプレッシャーをかける。すぐに私の方を向き正座をする二人。イー君と一緒にゲームをしていたのはあの謎の男だった。


 「イー君? 説明してもらえるかな?」

 「は、はい!」


 


 トイレから戻ってきたが、花音さんと荷物がない。あれ? あまりにもトイレが長くて呆れて帰ってしまったか?

 ふとテーブルに目をやると、置き手紙が置かれてあった。


 “彼女は預かった。返して欲しければ指定した場所に来い! byAZ”


 AZ? 誰だこんな事をする奴は…。僕に用があるようだけど。花音さんを巻き込むなんて、許せない。すぐに助けにいかなければ…!


 指定場所:思い出の空き部屋


 思い出の空き部屋? 空き部屋と聞いて思いつく場所は一つしかない。そして僕は犯人に気づいてしまった。

 

 「あいつか…。いくつになっても変わらないのはいいが、いい大人がこんな事…」


 少しため息をつく。大体の想像はついた。これは…早く助けにいかなければ!


 思い出の空き部屋というのは、僕が大学時代に住んでいたアパート隣部屋のこと。多分今も空部屋なんだろう。そして、その部屋を思い出の部屋と呼ぶのは、僕の知る限り一人しかいない。


 『小豆沢広高あずさわひろたか


 大学時代にしていたゲームの大会でよく腕を競い合った戦友だ。社会人になり、僕が時間を取れなくなったのもあるが、徐々にゲームから離れていったことで会わなくなった。

 こんな奇行に走ったのは数年前に再開してから2回目だ。1回目は僕がゲームを再びしているとどこからか聞いて『俺と勝負しろ』って僕をストーカーして来た。流石にびっくりして、やめてもらうために仕方なくゲームをしたが、ブランクがあった割に圧勝してしまったな…確か。


 思い出の部屋へ行くと、やはり小豆沢がそこにいた。


 「小豆沢! 花音さんはどこだ」

 「彼女ならそこで眠っているよ。安心してくれ何もしていないから」

 僕はすぐに花音さんの元へ駆け寄った。息はしている。ただ眠っているだけのようだ。少し安心した。


 「なんでこんなことをしたんだ?」

 「リベンジだよ」

 「何がだ?」

 「三年前のリベンジだ! ハマー! 俺とこれで勝負しろ‼︎」

 「お前はいつもいつも俺との勝負ばかりだな…。こんな事して何になるのか。もっと周りを見て見ろよ」

 「うるさい! 早くこれで対戦だ‼︎」


 

 「っとそんな感じでゲームで対戦をしてました」

 「今のいままで?」

 「はい」

 「そこの変態ゲームバカ! あんたも良い大人何だから限度を知れよ!」

 「はい…」

 

 しょぼくれた大きな大人2名を正座させた状態で説教をする。イー君を心配した私の気持ちを返して欲しい。


 「そうだ。これからあなた達暇よね?」

 「え?」

 二人はお互いの顔を鏡合わせのように向かい合わせた。

 「これから私の家に来て。家ならレトロゲームもあるし思う存分ゲームしてもいいよ」

 「いいのか!?」

 「ちょっと、花音さん。素性も知らない男を家にあげるなんて、危険ですよ」

 「何か危険になるような事があったらイー君が助けてくれればいいじゃない?」

 「…はい」


 私は思い出の部屋から大人こどもを二人引っ張り出して自分の家へと向かった。



 「気にせず上がってね」

 「お邪魔します! さぁ早く勝負の続きだハマー!」

 「お邪魔します…。ここが花音さんの家か…」

 「ちょっとあんまり見るなー。後、そこにファミコンとかメガドラとか色々あると思うから適当に遊んでてー。私はお茶入れてからそっちに行くから」

 「ハハハっ! ハマーよ。早く勝負だ勝負‼︎」

 

 私をさらった時とはキャラが変わり過ぎてもはやイケメンが見るかげもない。小豆沢さんは本当にイー君とゲームするのが好きなんだな。


 「何だかごめんね。巻き込んだみたいで」

 「イー君が気にしなくていいよ。私もこの手のレトロゲーム大好きだからさ。みんなで遊んだ方が楽しいでしょ?」

 「確かにそうですね。わかりました。ではお言葉に甘えて…」


 台所でお茶の準備やらお菓子の準備やらをしていると、「うおおおお」とか「おりゃあああ」とかまるで子供がそこで遊んでいるような声が聞こえて来て少し笑ってしまった。


 これがゲームの良さなのかもしれない。

 私のヲタク活動はまだまだ続くけどこれからもひっそりと続けていこう。

 でも…この二人の前では素の私で行こう。


 「私も次まぜてー」

 「お? 花音さんも参加か! ハハハッ。女子には負けんぞー!」

 「ハハハ」

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隠れヲタクの花音ちゃん Yuu @kizunanovel

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