第17話 本格的な全面対決へと(第一部完)
「考えて見ると、彼らは体よく処分されたのかもな。」
「我らに、邪魔者を処分させたわけか。」
勇者は強力な兵器であり、場合によっては、彼を核に、いくつもの勢力が、国が結集する場合も考えなければならない。魔族でも、有力な者は同様だろう。もちろん使いようによっては、また、自分の力ともしえるものだ。だが、彼らは処分することにしたのだろう。
戦いの準備を本格的に進めることになった。もう進んでいた。戦時体制に、二人の傘下の国々は入っていた。最早、隠してはいられない。二人の“帝国”は、はっきりとした形を現すこととなった。
相手もはっきりしている。プリマ帝国、またの名を聖竜帝国である。理想の世界、誰でも笑って過ごせる国を作る?そんなことはどうでもよかった、とても信じられるものではなかったとはいえ。姉を害する存在だから、弟に危害を及ぼす連中だから、戦わなければならない、倒さなければならないのだ。まあ、周囲には大義名分を掲げたが。実態は、単なる独裁者集団の侵略は許さないという大義名分をあげていた。
プリマ帝国は、東征の軍を発した。正確には、東西南北に軍を発していた。東征の軍が最大の軍だった。それで目立ったため、東征開始という認識になったのである。兵力の多さだけでなく、他の方面が補助的で、隙を突かれないため、謀略の比重が高い、防御体制をとる場合も多かったことにもよる。帝国首脳部の認識でも、今回は東征をするということもあった。
ただ、西南北三方面を一括、主に都から名宰相マーリンが指揮、監督していたため、彼だからできたのであるが、流石に東征には手が回らなかった。出陣前の準備、補給体制の整備は万全と思われる程度に整えたのはマーリンだったが。もう、彼の力からはどうしようもない状態になっていた。ただ、皇帝以下有能で、武勇自慢が多数揃っているし、彼が一目置くを置く参謀達も揃っていたのであるから、彼は不安を感じてはいなかった。
それに、マーリンは侵攻先の各国に謀略の網を既に拡げていた。
皇帝率いる軍の接近を知っただけで、次々に部下が離反し、孤立無援の中、妻に、愛人に殺される王、女王がでた。中には、果敢に城に立て籠もり抵抗を試み、しぶとく戦った者もいた。
全ては予定通りだったとまではいかなかった。幾つかの城が頑強に抵抗しているのである。そこでは、彼が謀略で協力者にして、計画達成過程の最後の段階で、捨てた奴が連中の重鎮の一人となっていた。
その砦に、援軍が現れた。人間達、亜人の各部族、さらに魔族からなる雑多にも見える軍だった。その先頭に二人がいた。
マーリンは、その報を手にした時、
「我が策は、なった。」
と一言だった。彼の妻、賢妻と不美人として名高い彼女は、自宅に帰り、そのことを聞き、ニヤリと笑って、
「では、勝利後のことを考えておかないといけませんね。」
マーリンは、その甘いマスクを少し考える風になっていた。
「各地の水軍と海賊をまとめているが、制海権を奪い、港湾を襲撃、壊滅、大河を遡って各地を襲撃、占領する。これで、各地で我が帝にはせ参じるものが相次ぎ、敗走した偽勇者達は、挽回機会を得られないだろう。後は、占領統治だが、当面のことは決めている。問題は、本格的な統治だが、まだ、案の段階だ。」
「様子を見ながら、進めていかないといけませんね。」
妻の賢明さを喜ばしく感じて、ニッコリと笑った彼は、
「明日には、案を精査して完成させないとな。間に合わなくなるかもしれない。」
二人は、自信に満ちた笑顔を浮かべた。
数日後、マーリンの顔は引きつり、
「ば、馬鹿な。何かの間違えではないか?へ、陛下は、帝はご無事か?」
と体をブルブルと震わせながら、我を忘れかけていた。
「ご無事ではあると…。」
伝令は、口ごもった。死んではいなかったが、かなりの深手を負っていた。
「義弟殿達は?勇者達は?どうしたのだ?水軍は如何したのだ?」
伝令の報告は彼の最悪の想定をはるかに上回る内容だった。水軍は全滅だと。魔獣、さらに魔獣と組み合わせた軍船が、軒並み、ほとんど一方的に、瞬く間に破壊され、燃えさかり、ちぎれ飛び飛んだという。撤退を直接援護どころか、陽動すら不可能だった。自慢の工夫の火焔車、連弩車、火船、火車などもなすすべがなかった。魔道士達や勇者達は、突入したが瞬く間に全滅したという。足に力が入らないような気分だった。混乱し、慟哭がこみ上げてきたが、“今はそれどころではないのだ。”と、何とか踏みとどまった。
「直ぐに、集められるだけの兵力を率いて、陛下を無事お迎えする。」
と言って、次々に指示をだしはしめた。おのが主人の命と主人が帰ってくる国を守らなければ、万難を排してもそれは必須のことだった。彼の頭にはそれしかなかった。
「この先は行かせないわよ!この売女!」
「我々の意地を見せてやる!」
「我が命をかけて、我が主を守りきりますわ。」
十数人の精鋭を自他共に任じている高位の聖具を身につけた男女が、二人の前に立ち塞がっていた。彼らに従う者、約一千、聖鎧、盾、槍で身を固めている聖装甲歩兵達である。
「もう飽きたわ、このセリフ。」
「当人達は真面目なんだから…、もう少し付き合ってやろうよ。」
二人の言葉に、相手の方が切れた。
「我ら全ての絆の強さを見せてやる!」
彼らが動き出した時、離れたところで大きな音が聞こえ、すぐに頭の上に何かのうなるような音が微かにするのを感じた。その時には、もう遅かった。聖具と防御結界で守られた者達以外は、爆発音と閃光、煙の中で、運の無い者は四散し、それより運の良い者達は火傷や破片による傷等で半死半生となり、運の良い者達は、気がつくと体の痛みと共に、仲間達の惨状を見ることになった。
稀に見るほど運の良かった者達も含めて数十人が、二人に向かってきた。連続的な発射音と共に、次々に倒れていったが、30人以上が二人の所までたどり着いた。魔道士ですら捨て身で魔法を放った。その魔法は、火球も雷電球も、氷球も氷剣も、弾かれ、消え、中和された。
何人かは、二人が引き金を引いた短銃、回転弾倉の大型、強威力の短銃の弾丸に倒れた。弾丸は、彼らの防御結界を易々と貫いたのだ。
「卑怯者!」
うんざりするくらい聴いた言葉が、また浴びせられた。
彼らは、それに構わず、弾倉の弾が無くなると、二人はそれを捨て、剣を抜いた。
剣の一振りで、相手の聖剣、聖槍、聖矢は押さえられ、剣に纏わされた魔法と同時に、複数放つ二人の魔法の攻撃に、圧倒され、翻弄され、彼らの誰一人として、二人とはまともに戦えなかった。ほとんど一方的に、彼らは倒されていった。
「私は、陛下が無事撤退されれば、この身はどうなろうと構わない!そして、私は責務を果たした!」
女の聖騎士だった。何とか、気力だけで立っていた。彼女を支えているのは、使命感だった。今、彼女は使命を果たせた快感を感じていた。
「あのな、君には悪いけどね。僕らが君たちを足止めしたんだよ。今頃、別働隊が追いついているよ。僕達の勇者達がね。」
落ち着いた、哀れむようなしゃべり方に、彼女は怒りと絶望と新たな使命感が同時に沸き起こるのが分かった。
「陛下!今…。」
彼女は、半歩しか進めなかった。彼女の胸から、剣の刃先が出ていた。魔法で彼女の内蔵は焼き尽くされ、絶命していた。
無造作に剣を抜いた姉であり、妻である女に、聖騎士が血を吹き出して倒れるのには関心を一辺も向けることなく、
「長くなりそうだね。長い戦いに。」
という弟であり、夫の男が呟くと、
「大丈夫!私があなたを守ってあげるんだから。」
と彼女は彼に抱きついた。
「僕も、姉さんを絶対守るから。」
と力いっぱい抱きしめた。直ぐに、唇を重ね、舌を絡ませ合い始めた。
第一部完、というよりはここから先が思いつかなくなってしまって…いつか第二部を始めたいと、一応、真面目に今の所は、考えています。
読んでいただいた方々、ありがとうございます。
姉魔王と弟勇者は必死に互いを守り合う 確門潜竜 @anjyutiti
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