第16話 その話には乗らないわ
「勇者様とあろう方が、どうして分かっていただけないのでしょうか?民のためにと思う、我が主君のことがお分かりになららないとは?」
ウーニャが呆れた顔をしているのに、倍するぐらい呆れた顔で男は、もうだめだ、というポーズをとっていた。
「あの男が魔王だということは、人々を圧制を敷いて支配していることは分かっているのです。複数の勇者のチームが進発していますよ。」
“?。タイカ様のことは、触れない?”不思議だと思った。“二人の離反を図る?う~ん、ちょっと無理があるか…。まさか、聖人皇帝って男よね…。だから、女は大目に?”ふっと、溜息をついた。
「タイカ様に、彼女に勝てる勇者がいるかどうか、複数でも。」
「あの男などに遅れを取る勇者様は、知りませんよ。」
“ああ、やっぱり狙っているのか、彼女を。”
プリマ帝国。それが、はっきり姿を現した相手だった。皇帝シエンは、竜神の末裔を称してはいたが、その素性ははっきりしない。傭兵集団を率いて、各地をまわっていたが、大賢者ミルと出会い、急速に勢力を拡大してきたらしい。らしいというのは、そこからの過程もはっきりしない。飾られた、彼が神に選ばれた聖人であり、それに相応しい行動が、まことしやかに故意に伝えられているだけだった。
「ウーニャ様も、勇者としての地位を守るためには、正しい道を選択すべきかと思いますが。」
「ぼくを、脅かすつもりかい?」
「滅相もない。ウーニャ様が、正しい選択をしないなどとは思ってもいませんよ。」
「そうかい。もう、選択はしているからね。」
使者は、微笑を絶やさずに帰っていった。
「あなたの所にも来ましたの?」
「私の所にも来たよ。」
ドウサとトレアが、ウーニャから話を聞いて、呆れるように言った。その3人が会して、話しをしている頃、
「本当に、呆れるくらい思った通りの反応をしてくれるな。」
返り血を浴びたシンが言った。
「全くね。まだ、死んでいないのは如何する?」
やはり返り血を浴びたタイカが尋ねた。2人の周囲には、十数人の男女の戦士達が倒れていた。その少し離れた所には、20人近い男女の戦士達が倒れていた。
「彼女ら3人には、少し不足だと思うのだけど。」
「まだいるかもね。彼女ら3人だけでないから、大丈夫でしょう?もう少し、周辺を見てみようか?」
「そうしようか。生き残っているのは、一応助けてやろうか。」
彼が手を上げると何人かが集まってきた。
「魔界にも、手を打っているかな?」
それがはっきりするのは、しばらくたってからだった。
「え~と、あなた方は私を助けにきたわけね。」
タイカは、彼女の玉座の下に、それぞれの獲物を手にする一団に向けて、呆れるように尋ねた。色々なタイプの男女がいた。全員魔族である。
「どゅあから~、ずっと前から、この人は?我が愛するドュア~リンで、夫なんですけど。」
甘~くシンに抱きつくタイカなのだが、彼らは聴く耳を持っていないようだった。
「卑怯者!魅惑の魔法か何かで彼女を操っているのか!」
「子供を人質に取っているのだろう!」
魔族の一団だと分かるが、種族も、部族も、国も異なる面々の集団だった。“まるで、勇者パーティーのようだな。”魔族は、このようなチームを作ることはない。誰かに唆された結果か。“想像がつくが。”“しかし、魔族だけに、頭が単純だな。”
「少し前に、どこぞの魔王が、我に同盟と結婚の申し入れをしてきたが、お前がその魔王か?」
「申し入れというより、こちらの希望を聞いてやるという感じだったが。何で、あんな発想になるのか、分からないな。誰かに唆されたとは言っても、信じることか?」
目の前の一団に問うような口調だったので、
「そんな魔王など知らん!」
「そうだ。そんな奴らと一緒にするな!」
と彼らはシンに向かって叫んだ。
その頃、ウーニャ、ドウサ、トレア達は、複数の勇者とそのチームをシンとタイカの子供達と他の元勇者達を含むその親衛隊と共に取り囲んでいた。
「どうしてタイカ様が、女勇者で囚われていることになって、助けに来るということになるのかしら?」
トレアが、溜息をついた。
「女勇者もいるんだから、シン様を助けに、ってならないのかな?」
ウーニャが、いかにも不満そうに言った。女ばかりのパーティーすらいるのが見て取れた。
「その通りだな。シン様を助けに行くというなら、喜んで行くだろうからな、お前達なら。それが当然だ。」
ドウサが、二人のせいにするように言ったので、
「あんただって、同じだろう。」
ウーニャが、反論した。
「まあ、唆したのが男だからかもね。多分、女勇者や女魔王が集まるのが悔しいんじゃない?」
トレアが解説すると、二人が囲まれている勇者達とそのパーティーに皮肉っぽく笑いかけた。真剣な表情の彼等に。
「お前たちは、何故、魔王に味方するのだ?仮にも、かつては勇者と呼ばれた者達だろう?」
と男の一人が叫べば、
「あのブス達は、魔王に心を売ったのよ。魔族の化け物以外に相手にされそうもないもんね。」
と挑発する女もいた。
「やるしかないのね。」
「あの時に、もう覚悟していたわ。」
「やるしかないのですね。」
情報が全く与えられていないのか、包囲されている不利を理解していない勇者達に向け、まずは銃砲の火花が、一斉に上がった。
「ひ、卑怯者!」
傷口を押さえながら何とかして、もはや気力だけで立っている魔族の男は、罵り声をシンに向けて浴びせた。
「卑怯?少なくとも、20人を私とタイカで相手をしたが?」
「彼女を盾にするとは!」
気力だけで立っているのだが、口だけは違うのか。まだ動いていた。立っているのは、彼だけだった、もはや。タイカが後ろから、うんざりした顔を向けていたので、シンは頷いた。タイカの槍が、その魔族を貫いた。それで終わった。
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