第15話 二人は前面に出る

「もう隠れているわけにはいかないわね?」

「そうだね。これからの戦いは、大きなものになるから、守ってばかりではいられない。そうなると、大義名分が必要になるしね。」

 ベッドの上で、汗とそれ以外のモノにまみれながら、並んで仰向けになりながら、2人は言った。

「では、まず何を始める?」

「体制固めだと思うけど。」

 2人は、頭をひねった。

「私達が、少なくとも盟主になって、トップに立たないとダメね。誰かをとか、共和制だとまとめられないわね。」

「そうだと、少なくとも軍事権は握るとして…かと言って、全て常備軍、国民軍化なんか困難だし、…経済は今までの関税廃止、交通、流通、移動を活きないの自由化を進めるとして…国政は諸国議会を…。とりあえず、臨時独裁官とかで、当面は…。」

「もっといい名前にした方が、いいと思うけど…。新体制を約束をして…かしらね。」

 結局は、現行の延長しか思いつかない。それでも、はっきりと二人が上に立つことが明らかになることは、色々とやらねばならないことがでてくる。

「まずは、主要な連中を集めることだね。それから、今、集まっている軍を維持しなければならないな。」

「それを背景に新体制ね?今の脅威を精一杯、誇大にでも言わなければね。誇大にしなくても十分か。」

 捕虜を拷問までして、或いは薬で白状させ、記憶を直接探った結果は、そのままでもひどい脅威となるものだった。

 聖竜神帝国の存在だった。高次元竜神の血を引く皇帝の下、世界統一のために侵攻を開始することを方針としているのである。それは、武力による以外の方法、謀略も駆使するという。

 その頃。既に脅威は動き始めていた。

「ど、どういうことだ。急ぎ地方より戻ってみれば、他国の兵が、王都に入ってきているぞ!国王陛下はどこにおいでなのだ?宰相である、お前は何をしていた?」

 国の軍事のトップである大将軍が、宰相の部屋に怒鳴り込んで来た。

「兄上。相も変わらず、粗暴な態度。兄弟として恥ずかしい限りですな。国王陛下は、既に聖竜神皇帝陛下を、国境の城でお迎えしております。聖人である皇帝陛下に、我が国をお渡しになると固く心を決められたのですよ。」

 筋骨隆々にはほど遠いが、それなりに逞しい整った顔立ちの兄大将軍とは異なる、小柄で醜いとも見える宰相の弟は、嘲るように笑いかけた。

「お、お前は、陛下を、国を売ったのか?ま、まさかと思いながら駆けつけてきたが、重用して頂いた、宰相まで登り詰めながら、ななんと…。」

 ワナワナと震えつつ、両手を床についてよつんばいになった。

「この不忠者が。」

「匹夫の忠ですな。聖人への君子の忠こそが私の求めるところです。陛下もそうです。兄上も早く、皇帝陛下をお迎えに。それを拒否して、既に何人もの将が首を切られておりますぞ。」

「お、お前…。」

 何とか、気力を振り絞って立ち上がった彼に、弟は追い打ちをかけるように、

「兄嫁様の方が、ずっと賢かったですよ。既に、皇帝陛下のご立派な臣下の方と夫婦になられた。もう家に帰ってもおいでにはならないですよ。」

 その言葉に兄は青くなって、体が震えだした。よろめいて、倒れかけるほどだった。

 その時、

「閣下。お気を強く!大将軍までいなくなっては、我が国は、もう崩壊ですよ。」

 若い女だった。

「ん?お前は!」

 宰相の秘書の女だった。

「宰相は、弟様は、帝国に高い地位を約束されて、陛下を、国を売り、閣下を裏切ったのです。私は全部知っております。もう、もう遅すぎますが。」

“でも、私がついておりますから!”という顔だった。それに肯き、彼女に支えられながら、彼は部屋を出ていった。

「この裏切り者!恩知らず!不忠者!」

 宰相は、ワナワナと怒りで震えながら怒鳴った。

 その宰相が新たな活躍を夢見ながら、皇帝に拝謁するため、廊下を歩いていた途中で、まちかまえていた兵士にいきなり斬りつけられて絶命したのは、大将軍が最後の抵抗をしていた城を枕に戦死するはるか以前の、二人が別れた翌日のことだった。

 各地で同様なことが起きていた。

「ここにおいでの方々の中にも、彼らが自分を高く評価してくれていると信じている方もおられるかもしれません。獲物を捕ったら、猟犬はもういらないのですよ!」

 勇者ドウサは、自国の居並ぶ群臣、貴族、将軍達の前で訴えた。そして、殺気が少しでもないか神経を高めていた。案の定感じた始めた。“5人。?もう1人、微かだ、暗殺者か?”髪の毛を右手で弄ぶような仕草をした。後ろに控えるチームの仲間達への合図だった。

 5人は音もなく、襲いかかってきた。剣士、魔道士、短剣使い、格闘家、槍使い。5人の連係のとれた同時攻撃をドウサは、受け止めた。チームの面々が、加勢に加わる。気配もなく迫っていた少女が、悲鳴を上げて、倒れた。

「大丈夫さ。気絶させただけだよ、嬢ちゃん。」

 三十半ばに見える中背の男前が笑って立っていた。

「さすがね、元勇者さま?」

「おいおい、引退なんかしてないぞ。」

「じゃあ、おじさん勇者様?」

「せめて、勇者おじさまにしてくれよ。」

 5人は、瞬く間に倒された。それを見て、静かにかつ足早に姿を消そうとした男の前に、

「駄目ですよ、逃がしはしませんよ。」

 ハイエルフの女戦士とオーガの女戦士が立ち塞がった。

 とりあえず、ドウサは国論を制した。

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