陽キャクラスから弾かれた女の子に優しくしたら懐かれた
空館ソウ
短編につき完結済み
「戻りたくねぇよぅ……」
残暑きびしい日差しにまけ、すごすごと校舎へと続く長いスロープをダラダラと上っている。
人の居ない中庭で昼ご飯を食べていたけど、もう我慢の限界だった。
夏服のスカート裏が気持ち悪い。
スマホの画面に表示されるのは一三一○。昼休みが終わるまであと二十分。長い。
このままだと騒がしい教室で一人スマホをいじる事になる。
一学期までならそれも良かったんだけど、夏休み明けという時期に加え、とある事件が発生したせいで私のクラス1−Bは祭の様に盛り上がっている。
クラスメイトのコミュ力がインフレを起こし、普段話さない人ともハイテンションな会話が繰り広げられているのだ。
一クラス総リア充というコミュ力バブルがもうちょっと落ち着くまであの空間には入りたくない。
そんな理由でだらだらとした歩き方で時間を稼いでいると、教室の扉の前で紙束を抱えた美少女が引き戸を開けようと四苦八苦していた。
(あ、始まりの人だ)
身長は百五十五くらいだけどバランス良く伸びた手足。
私などでは想像もつかないヘアアレンジで飾られた亜麻色の髪。
それ化粧の必要ある? とききたくなるベースもチークのいらないきめこまやかなバラ色の頬。
大きな二重の瞳は伏しがちな長い睫にふちどられ、少し眠そうにみえるけど、そこがまた良い。
彼女の容姿の魅力はまだまだ語り尽くせないけれどこれ以上見ていると向こうに気付かれてしまう。
「あ」
ほら気付かれた。サービスタイム終了。
私は扉の傍らに立って持ち手を握った。
「姫奈島さん、ドア開けるよ、いい?」
「あ、ありがとう、ございます」
顔を真っ赤にして頭を下げる姫奈島さん。
顔を伏せたせいで真っ赤になった耳と首筋がみえる。
とても可愛い。
「あ、ユウおかえりー」
「ただいまー」
こちらが記憶をたぐっているうちに姫奈島さんは窓ぎわ前部に固まっていた男女達に向かって駆け寄っていき、見た目と合わない乱暴さで紙の束を机の上にどんとのせた。
「っあー重かったー」
そのまま足をひらいて椅子に座り込む。やだ見えそう。
「ユウちゃんひとりでお使いできて偉いねー」
「川崎さんやめてくれない? 俺身体が変わっても中身は男子高校生のままだから!」
「やめなーい。ヒナちゃんは女の子のままで良いの!」
女子の一人に抱きしめられてもがく姫奈島さんの周りに人が集まり一段と騒がしくなった。
そう、あの可愛い姫奈島さんの本名は
夏休み前は170センチくらいの背丈だった元男子で、1−Bが祭り状態になった原因だ。
夏休み初日にあの姿になって、夏休み明け女子デビューを果たしたとのこと。
もともと茅ヶ崎君という男子カーストトップの幼馴染で同じグループだったので、あっというまに”ヒナ”やら”姫”と呼ばれてクラスの中心になっている。
「あ、MUN先生新作上げてる。いいなーこんな絵かけたらなー」
対して私はそっと後列右側の自分の席につき、インスタで流れてくる画像を流し見る。
彼が女子の姿になった理由は神様のいたずら、としか言いようがないらしい。
我がクラスの考察厨は、
「姫奈島が寝ている間に謎の組織が彼の身体を狙って押し入り拉致。秘密基地で美少女と人格交換実験を行った上で彼をベッドに戻した」
と分析している。
何一つ根拠がないし彼の身体の希少性がどこにあるのかもわからないしリリースする意味もわからないガバガバやん。
考察厨やる気あるのか仕事しろ。
しかし私の叱咤激励は届くことなく、彼らは普段はからまない女子と姫奈島さんの話題で盛り上がっている。
このように、姫奈島さんという特大の話題のせいで一学期の内に固まった人間関係はリセットされ、今も成長中というわけだ。
けど、私はその輪の中には入らない。
適度な位置で悪目立ちしないように彼らのやりとりを眺めて時間が過ぎるのを待つ。
「尊いねー、実に尊い」
「真木か……」
一瞬テンションの高いクラスメイトに声をかけられたかと思ったけど、机の横をすぎ去るのは襟足が跳ねたショートカットの女子だった。
「
誰がファッションボッチだ。
中学からの顔見知りである真木は斜め前に座り文庫本を開き読み始める。
その背中をチラリと見た後、またスマホに目を落とす。
私は真木に返事をしないし向こうも返事を期待していない。
倦怠期の夫婦なんてなった事はないけど、傍目にはそんなものかもしれない。
けど、真木の言うとおり姫奈島さんは尊い。
さっきの言動からわかるとおり、姫奈島さんの中身は一学期の姫奈島君だったころと同じく男子そのものだ。
整った容姿の異性になってしまった事に困惑しつつ、目覚めていく新しい感覚に照れながら順応していく様、尊い。
けれど私は人間観察が好きなわけじゃ無くて、遠くで眺めているだけで十分なのだ。
彼はボッチな私を気遣ってたまに声をかけてくれるとっても素敵なナイスガイだ。
なんか無理をしているのがまるわかりだったから断っていたけど。
ケラケラとわらう姫奈島さんの笑顔がまぶしい。
あんな笑顔が私の近くにあるなんて想像できない。
周囲を光の粒子が舞ってさえいる気がする。
こういうのはヒキで観察しなければ見られない絵なのだ。
「尊い……」
「顔、ひどいことになってるぞ」
真木の指摘に私はあわてて口元をなおしてスマホに目を戻した。
ばれてはいけないのだ、ばれては。
この素晴らしい光景を、少なくとも学年が変わるまで、見続ける事ができる。
なんて素晴らしいのだろう。
—— ◆ ——
(ポニーテールが揺れている)
何か良い歌詞が生まれそうで生まれなかったのでセブンの袋をガサガサする。
台風が関東地方にダイレクトインしてくる予報が発表されている本日昼休み。
空は真っ黒い雲におおわれていて何時雨ふってくるかわからない。
私は泣く泣くひさしぶりに教室で食事を取ることとなり、孤独にクラブハウスサンドを無心に咀嚼していた。
いつもは校舎内のお気に入りのオープンスペースで気の合う友人と食事をしているクラスメイト達も台風がもたらす大風を避けて教室内で食事をしている。
教室という画一的に交友関係をつまびらかにされる今の状況は、普段華麗にこそこそと秘密の場所に避難してボッチ飯をたしなんでいる、私のような輩にとっては非常に居心地が悪い。
けれど、そんな私や私の同類より居心地悪そうにぽそりぽそりと食事をしている人物がいる。
時々台風由来の強風がせまってくる窓ぎわの席で、一人焼きそばパンをかじっている姫奈島さんだ。
ついこの間までヘアモデルのように日替わりで整えられていた髪型は自分で結ったのか。シンプルなポニーテールに結ばれていた。
表情が曇っているのは空のせいではないだろう。
彼は今教室の中心にはいない。
(ヒナシマって茅ヶ崎狙ってたってマジ?)
(大塚達がきいたってよ。クラスで背が高くてかっこいい人が好きなんだって)
(そんなの茅ヶ崎しかいねーじゃん幼馴染み好きとかヒナちゃんマジ乙女!)
(本人は違うって言ってるけどな)
皆のアイドルヒナちゃんは、ついこの間の昼休み、悪ノリした女性芸能リポーターに食い下がられ、好きな人の特徴をスクープされてしまった。
茅ヶ崎君はすこし筋肉質な高身長にアッシュカラーのデコ出しベリーショートカットの茅ヶ崎君は爽やかとワイルドの中間の見た目でとても人気がある。
ちょっと無愛想なところもポイントが高いらしい。
……もくもく。
(でもなんでハブられてるわけ?)
(川崎)
(あー、そういう)
隣の関くんエッジの効いた解説ありがとう。
そして隣のクラスの倉持君、貴方の察しの良さ、嫌いじゃないわ。
つまりそういう事だ。
大塚グループのヒロインポジション、”元”クラス一の美少女川崎さんは姫奈島さんをダシに茅ヶ崎グループと遊んでいた。
そこにきてダシにしていたはずの姫奈島さんが、本人にそのつもりがなくても恋のライバル宣言をしてきたのだ。
姫奈島さんはクラスどころか学年一の美少女、しかも茅ヶ崎君とは幼馴染みの親友。
ポテンシャル的に川崎さんの勝ち目はゼロだ。
当然大塚グループはだまっていない。
(でもよ、ちょっとかわいそじゃね?)
倉持君の義侠心が目覚めたみたいだ。
(かわいそうったって、大塚達が姫奈島きもいムーブかましてんだもん。まわりの女子勢も乗っかってるから男子もなんもいえねぇよ。クラスのSNSなんて表も裏も姫奈島への当てこすりでギシギシよ)
そうなの倉持君、いま1ーBのグループチャットはてんで意味のわからないほどカオスってるわ。
隣のクラスの貴方では一割も理解できないでしょうけど、悪意で満ちているのだけはわかるはずよ。
(茅ヶ崎はなにしてんだよ親友だろ)
(言ってやるなよ。あいついっつも昼休みいないだろ? あいつイケメンだから先輩から目を付けられてたし、自分の火消しで手一杯なんだろうよ)
(うげぇ、かかわりたくねー)
(だろ?)
その後話ははチューバーとか全然関係ない話にうつっていった。
倉持君、君の義侠心はそんなものだったのか。
でも大丈夫。私はあなたをせめたりしない。だってそれが普通だもの。
私だって目立つリスクを負ってまで姫奈島勇正という存在を孤独から救うつもりはない。
救ってくれと頼まれてもいないのに、勝手に救わないことに良心の呵責を覚えるほど、私はヒロイックな思考をしていない。
……もくもく。
一人で人の視界に入りながら食事をする気まずさを感じながら、それでも落ち着きはらって食事をする。
あー、せっかく奮発して買った昼食が全然美味しくない。
「キノヤ、一つだけ忠告しておくわ」
唐突に、隣に真木が立っていた。
「真木……」
こちらに目を合わせることなく、真木の指は私の机の上を指さした。
「それ、三個目よ」
端的な事実だけを指摘し、真木は斜め前の席に座って小説を読み始めた。
机の上にはセブンのクラブハウスサンドの袋がふたつ転がっており、私の手元にはかぶりつく直前のサンドイッチがあった。
くっ、放課後のためにとっておく予定だったのに。
おのれ倉持ぃ!
—— ◆ ——
「それじゃーまず二人一組になって柔軟から——」
ボッチ敗北率百パーセントイベント”二人一組”。
仲の良い二人で組になって、というこの謎儀式。
教師の腹の内はしらないけど、学生の私達にとっては「コミュ力科目」の抜き打ちテストに等しい。
特にウチの学校、科目を問わず授業にちょいちょいこのテストを差し込んでくる。
だが私はボッチにもかかわらずこのテストに対して負けた覚えはない。
なぜならこのテスト、実は待っているだけで終わるからだ。
こちらから相手を探しに行くことはしない。
あぶれた人はいるなら私の所に来るし、いないなら私が教師と適当に何かをするだけだ。
来る者拒まずさるもの追わず。キョドった者こそ敗者。
不動心を得た私こそカーストを解脱せし者……!
「あ、あのキノヤさん。良ければ俺と、組んでくれないかな……」
「うん、いいよ」
けれど最近そのルーチンが崩れつつある。
日を追うごとにハブられ度が高まっていく姫奈島さんと組む事が増えてきたことだ。
「じゃあ柔軟からいこうか」
おずおずと小さな手が私の手に重ねられる。
あー姫奈島さんの手は相変わらず柔らかいなー。よきよき。
最初は照れと緊張が目立っていた姫奈島さんだけど、こちらが普通に接していくに従い自然と笑うようになってくれた。
近くでみる笑顔もまた尊きもの。
しかしこの感動を外に漏らして姫奈島さんに警戒されるわけにはいかない。
ありがとう不動心ありがとう。
そんな感じで姫奈島さんとの肉体的交流を楽しんだ後は無難にバドミントンをこなして体育の授業は終了した。
だらだらと女子更衣室にはいり、だらだらと着替える。
牛歩戦術は孤独のカモフラージュ方法として汎用性が高いのだ。
「さて、そろそろ帰ろか……?」
全身の力を抜き、最低限の力で移動する。
ある意味剣術の奥義にも通じる牛歩の動きで外に向かう途中、ふとロッカーの陰をみると、ベンチの上には半裸のまま座り込んだ姫奈島さんの姿が!
なんというラッキースケベ!
じゃなくて。
「……どうしたの、姫奈島さん、具合でも悪いの?」
慌てて駆け寄り、ヒザをおって姫奈島さんのうつむく顔をのぞき込む。さすがに今は煩悩ゼロだ。
「……うっ、うっく、うっく」
姫奈島さんは泣いていた。
保健室に移動し、職員室で次の授業の準備をしていた数学の小山先生に事情を伝えて姫奈島さんがいる保健室に戻った。
「……相手は茅ヶ崎じゃないって言ってるのに、俺のなにが嫌なのかきいても教えてくれないんだ。クスクス笑うばっかりでさ……」
背中をさすりながらきく姫奈島さんが耐えてきた事を言葉にするたび、じくりと心が痛む。
なぜなら、彼が健気にも大塚グループの女子達と話をしようとおいかけているのを私も含めてクラスの皆は知っているからだ。
「ごめん、キノヤさん、こんなグチ言って……」
溢れる涙を認めたくないのか、姫奈島さんはしきりに手の甲で涙を拭っている。
あんまりこすられると化粧をし直しても隠せなくなるからこまるなー。
と思っていたら指がいつのまにか姫奈島さんのかわいいまぶたに乗っていた。ちょうど後から頭を抱く姿勢になりましたが、不可抗力です。
「……キノヤ、さんっ⁉」
バタバタ暴れる姫奈島さんすごい小顔、じゃなくてどうしよう。
「大塚さん達には何をいっても無駄だよ」
急に目をふさがれているせいか姫奈島さんが段々おとなしくなっていく。
なんか委ねられてるみたいでちょっと母性がふっくらしてくる。
彼女らには具体的な不満があって姫奈島さんに解消してほしいんじゃない。
姫奈島さんを苦しめるのが目的なのだから、むしろ問題が解消されては困るのだ。
自分達が断罪されたくないから問い詰められてもあいまいな笑いと意味ありげな目配せで煙にまいて尻尾はつかませない。
彼女らはそういう生き物だ。
だから私はボッチを選んだ。まあこれは関係ないか。
そのことを噛んで含めるように伝えると、姫奈島さんもおちついたようだ。
ゆっくり手をほどいて、ハンカチで姫奈島さんの目をおさえてあげる。
他人の言葉を聞いて落ち着いたんだろう。頼りなげに見上げる瞳にもう涙はみられないのでベッドに座って、疑問に思っていたことを口にした。
「ところで、茅ヶ崎君が相手じゃないなら、誰が好きか人前ではっきり言えば良いんじゃない?」
そもそも姫奈島さんの茅ヶ崎君好き疑惑があるからこの騒動がおきたのだ。
告白まで言ってしまえばなにかブレイクスルーは起きるだろう。
少なくとも大塚グループからの当たりはかるくなるはずだ。
と思ったんだけど、落ち着いていたはずの姫奈島さんの垂れ目がちな目が信じられないとばかりにパッと開いた。
ことあるごとに暴論だと指摘される私の発言は今回も同様だったようだ。
「人前でなんて恥ずかしいし! あ、相手が、迷惑だって思うかもしれないだろ! まだ友達ですらないし、俺、外見がこんなになっちゃったし……」
いつの間にか砕けていた口調が徐々に小さくなる、パタンとスカートをつまんだ指を太ももの上に落とす。
そんな仕草をする子を迷惑に思う人は男女ともにいないんじゃないかな?
「外見は関係ないよ。それに、姫奈島さんのいうかっこいい人は他人の好意を迷惑だって思うような人なの?」
敢えて挑発するように顔を近づけて見せると真っ赤にして顔を振って否定した。
「なら公開告白しちゃいなよ。あ、もちろん友達から始めたいって言ったほうがいいけど」
こんな可愛い子をふる人なんていないだろうけど、予防線は張っておくにこしたことはない。
譲れない一線を持っている人だっているのだ。愛で全てが許されるわけじゃないからね。
「と、友達からだったら成功するか……な?」
そんな庇護欲を活性化させるモジモジ上目づかいされて落ちない人類はいない!
むしろその場で押し倒されないか心配したほうがいい。
「うん、大丈夫だよきっと! 私が保証する!」
今にも飛びかからんばかりだった腰をゆっくりとベッドに戻し、私は爽やかな笑顔で姫奈島さんにエールを送った。
あぶなかった。未遂、未遂だからセーフだよね?
—— ◆ ——
さて本日、まだだいぶ余力を残した太陽の日差しが差し込む放課後の教室。
覚悟を決めた漢の貌をした美少女のチャレンジが始まる。
「茅ヶ崎、ちょっといいかな」
状況はHRが終わった直後、担任の原田先生すら教壇を降りていないこのタイミングで教室を飛び出すスプリンターはこの教室にはいない。
居合わせないのはこの季節によく起こる食中毒で倒れた野田君だけだけど、彼は背も小さいし頼りがいは……多分ないので問題ないだろう。
「なんだよ姫奈島あらたまって、話なら帰りにきくぜ?」
「今、ここじゃなきゃだめなんだ」
真剣な声にザワつく教室。誰も帰る様子もない。原田先生でさえ眼鏡を直して状況を見守っている。
「この間”お前が好きな奴って誰?”ってきいたけど、その事か」
え、なにそれ初耳。茅ヶ崎君そんな直球投げてたの?
動揺は周りもおなじようで、方々で前に出ようとする人が数名。
大塚グループだ。前に出て行きなにかするつもりだったのだろう。
けれどここで意外にも茅ヶ崎グループが彼女らの動きをブロック。
邪魔が入ると見込んであらかじめ仕込んでいたか、やるわね姫奈島。
「その時俺が答えたこと、直接皆に言うけどいいか?」
女子の方々から黄色い声が上がる。
なんなのモブら、彼らのカップリングはキモいのか尊いのかはっきりしなさいよ。
「おう、いったれいったれ」
ニカリと笑う茅ヶ崎君。あの様子じゃ姫奈島さんの思い人は知っているみたいだ。相手は男子じゃないって言ってたけど誰なんだろう。
私の見立てでは真木が一番手だ。
すらっとしているし、性格はかっこいいと言えなくもない。
実際はねちっこくて最悪だけど。
本音は彼女はやめとけと姫奈島さんにいいたいけど、私は彼の勇気を尊重したい。
バレッタで髪をキリッとまとめた姫奈島さんが真木にむかって歩いてくる。
こうしてみると一学期の姫奈島君を思い出す。
つくりは女顔だけど、内面の男前が表情に出ている、そんな人だった。
今の姫奈島さんはまさにそんな感じだ。
そんな彼がよりにもよって真木の恋人か……この場合彼氏? 彼女? どっちにしても嫌だなぁ。
——スッ
「ん?」
真木が唐突に身体をずらした。同時に真木の身体に隠れていた姫奈島さんの全身が私の目の前でとまる。んん?
「キノヤさん! 俺が好きなのはキノヤさんです!」
場に静寂が満ちる。
ちっちゃい身体をピンと伸ばし、私を見上げる姫奈島さん。
「あの、私の背はたしかに百七十三あるから背は高い自覚はあるんだけど、でもかっこよくはない、と思うんだけど?」
暴れ出しそうな手足をぎゅっと拘束して自信なさげに首をかしげるのが精一杯な私、カッコワルイ。
常に無難なポジションで立ち回り、堂々とした風でつったっているだけの存在だ。
この虚勢がかっこよく見えていたのなら姫奈島さん、あなたの目は節穴です。
「一学期から気になってたし、この間慰めてもらった時わかったんだ。誰も責めずに生きるこの人はやっぱりかっこいいって」
自覚がない私にはさっぱりだ。生きるってスケールでかくないですか?
そんな私のキョドりっぷりを見て姫奈島さんは軽くため息をついた。
「今キノヤさんから”私も”、なんて言葉は期待してないよ。でも”友達”になって欲しいんだ。そしたら鈍いキノヤさんにも僕がなんで好きになったのか伝わると思うから」
”トモダチ”を強調していう姫奈島さん。ハイ、私たしかに友達なら告白うまくいくって言いました。言質とられてました。退路は既に無し。
……だが、誰が退くといった?
私の口角は自然とつり上がる。身体の震えを押さえてまっすぐに、姫奈島さんを見下ろす。
「好き、なんて言葉はまだ言えないけど、私も姫奈島君の事を見てた。今日からもっと近くで見られるなら喜んでその申し出を受けるよ」
私は好きなのは人間であって観察じゃない。
姫奈島さんとイチャコラできるならよろこんでリア充の仮面をかぶろう。
右手をためらうことなく差し出すと、一瞬驚いた姫奈島さんは荒々しくもたおやかな手で私の手をとった。
「そういう所が、かっこいいんだって」
姫奈島さんが、私の心を見透かすかのような瞳で笑った。
うん、たしかに、ここは握手じゃなくて、身を寄せるとか、そういう事をする場面だろう。握手って、明らかに友情を確かめ合うジェスチャーじゃない。
でも告白した当人がこういう私を好きだって笑ってくれているのだ。
誰も文句はいわないだろう。もちろん私も文句はなしだ。
【あとがき】
お読みいただきありがとうございます。
ラブコメ初挑戦ということで、いかがでしたでしょうか。
これからイチャコラする二人の前日譚、という感じで書きました。
カクヨムコン9に参加します!
みなさまの★やフォローが力になります!
ぜひ、♥や★レビューで応援していただければ幸いです!
陽キャクラスから弾かれた女の子に優しくしたら懐かれた 空館ソウ @tamagoyasan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
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