第9話 環の初陣
画面の向こう側、つまりはゲーム内に居る環のキャラクターは、鳥居の前に立っていた。
先程プレイしたチュートリアル内にも建っていたように、鳥居はこのゲームにおけるランドマークの意味合いを果たしており、日本をモチーフにしたFLHでは
今回の場合は、プレイヤーを戦いへと誘う門としての役割を担っていた。
中央は渦を巻くかのようにうねうねと動き、いかにもワープゲートを彷彿とさせているが、実際この中に入るのかと思うと、動きの気持ち悪さに環は若干尻込みしていた。
鳥居の上には巨大なマップが浮かんでおり、今回の戦場が映し出されている。
マップに書かれた戦場の名前は「ONI-GA-SHIMA」つまりは鬼ヶ島。
昔話の桃太郎で、一行が鬼を退治しに乗り込んだあの有名な島が今回の戦場だった。
「・・・鬼ヶ島」
「FLHじゃ一番オーソドックスで、一番人気があるフィールドだね」
茜は下から持ってきたスルメを咀嚼しながら楽しそうにしていた。
実際、初心者の環が戦うには適したフィールドだと思っているからだ。
《鬼ヶ島には宝と共に、FLHの基礎が埋まっている》
FLHトッププレイヤーの誰かが言った言葉だが、その通りだと茜は思う。
起伏に富んだステージ構成だが、ギミックはオーソドックスでわかり易い。
何度か改変は加えられているが、FLH初期からプレイヤーを導いてきたステージなのだ。
マップは要所要所に「石切場」「波止場」「鬼の顎」「鬼の塒」「宝物殿」等、地名が書き込まれており、更に地名ごとにいくつかの光点が見受けられる。
マップを見ていた環のゲーム画面に、突如アイコンが表示された。
【スタート地点に賛同しますか はい//いいえ】
とだけ書かれたアイコンを目にし、環は軽いパニックに陥っていた。
いったい何についての賛同だか理解できていないからだ。
見かねた茜が助け舟を出す。
「リーダーになった、ほれ、そこの浦島が降りる地点を確認してるのよ」
そう言って顎を突き出した茜の指す方向を見ると、光点の一つが点滅していた。
「リーダーには最初に降りる地点を選択できる権利があってさ、その浦島クンは律儀に聞いてくれてんの」
「律儀にって、聞かなくても良いの?」
「そそ。俺様的なリーダーは勝手に決めることもあるよ」
チュートリアルは済ませたが、こういう細かいルールを覚えている暇なく飛び込んだ環は、なるほどと感心しつつ画面を見ていたが。
「ほら、早く決めないとスタートしちゃうよ」
との茜の言葉に慌てて画面を見直すと、表示されているカウントが一桁になっている。
慌てて【はい】を選択したときには、数字は01になっていた。
数字が00になった途端、環のチーム3人のキャラクターが光り、一気に鳥居に飲み込まれた。
画面が光に包まれ、次の瞬間目の前には角張った大きな石に囲まれたフィールドに降り立っていた。
味方が示した地点は「石切場」
建材用の石を切り出した遺跡のようなフィールドで、極端な高低差がある場所だった。
環のキャラクターは、どうやら一番低い場所にいるらしく周りは石ばかり見える。
「ほら、スグに動いて武器漁って!」
茜の声に我に返った環は辺りを見渡し、少し離れた場所に
FLHのアイテムや武器防具はこの葛籠に入ってる。
チュートリアルで学んだ事だ。
葛籠を開けると中には銃とその弾、それと投擲アイテムが入っていた。
急いでそれを取る。
その瞬間、銃声が聞こえたかと思うと、環のライフゲージが半分になっている。
「?!」
訳も分からず銃声のした方に振り向くと、そこには見たことのないキャラクターが立っていた。
今回、自分が参加したチームのキャラクターは、浦島太郎とかぐや姫、だったはず。
とすると、これは誰だ?
見ると、胸には〈金〉のマークがついた服を着ている。
なるほど、これは金太郎なんだな。
金太郎か、金太郎・・・・・・金太郎・・・・・?!
敵だ!!!!!!!!!!!!!!
銃を構えて撃とうとする環だったが、あまりに急な展開で頭も手もついてこない。
相手に銃口を向けるも、全く照準が合わない。
頭の中が真っ白になる代わりに、画面は真っ赤に染まっていた。
そして、大きく【全滅】の文字が。
何があったのか全く分からず、理解できないまま環は待機画面に戻って来ていた。
倒されてから、どんな流れでボタンを押して戻ってきたのかすら覚えていない。
数秒、呆然と画面を見つめていた環は
「ふわぁぁぁぁぁっ!!」
との声を発し、コントローラーを握ったまま後ろに倒れ込んだ。
その顔を茜がニヤニヤと覗き込む。
「どうだった?」
茜の問い掛けに、環はにまっと笑い。
「めっちゃ面白い!!!!!!」
即答した。
すくらっち がーる ろくろだ まさはる @rokuroda
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