第23話 義兄妹の時間と皇族護衛編 14 (完結)
「た、頼む。言われた事は全部話した。と、トイレを……」
「うん? 最近僕耳悪くて、もう一回いいですか?」
べルートで遊び始めた和也。
「お、お、お、お願い致します。死刑でも拷問でも何でも受けますのでどうかご慈悲を少しだけご慈悲をください。せめて人間としていえ、生物として排泄の権利だけでもくださぁいぃぃ!!!」
「それホンキで言ってるおっさん?」
首を上下に振り意思を伝えるおっさん――べルート。
「だそうです。女王陛下と第二王女」
我慢の限界なのかもぞもぞと身体を動かし涙目のおっさん――べルート。
和也に懇願するその姿はあまりにも痛々しく見ていられなかった。
なによりこんなグダグダをしている間にもべルートのお尻は限界を迎えている。
時は一刻を争うのだ。
第二王女――榛名は第二プライベートルーム前に待機している清掃員にむかって叫ぶ。
「全員入ってきて!」
「お怪我は大丈夫そうですので……」
「坂本! 今はそんなくだりも挨拶も説明もいらないから早くコイツを運んで!」
遥も叫ぶ。
「しかし……」
「今はいいの。全部事後報告でいいし無礼でいいから早く!」
「は、はい……」
その時だった。
「坂本総隊長!」
「どうした!?」
「男のATフィールドが崩壊を始めました!」
「どうやら我慢の限界のようです。このままでは間に合いません!」
「ただいま中身が顔を出し始めている感じがします!」
「なら目的地変更だ! 場所は囚人シャワー室! この際担架は汚れても構わん。急げ!」
身の安全の為ガスマスクをつけた軍人六名+総隊長監視の元、べルートはその身を哀れな姿で運ばれた。
それを見た和也は言う。
「相変わらず慌ただしい国だな」
「アンタのせいよ!!!」
「アンタのせいよ!!!」
「お前のせいだ!!!」
遥、榛名、育枝の三人が声を合わせていった。
それを見たカイトが言う。
「なるほど。確かに俺では遥を笑顔に出来そうにないな」
「諦めるのか?」
「あぁ」
「そっかぁ。でもそれだけ好きな奴の笑顔を願えるなら今度は時間を掛けて挑戦してみたらどうなんだ?」
「無理だろう」
和也とカイトは念の為にと育枝にアルコールを吹きかけるように指示をしている遥と榛名を見て話した。
「そっかぁ。なれ俺から一ついいか?」
「なんだ?」
「榛名が何を言ったかは知らない。だけどな俺はこの国が滅びようが繁栄しようがそこまで興味がねぇ。ただ俺の大切な人さえ無事なら別に俺は嫌われようがこの世界に居場所がなくても構わない。だけど俺の大切な人を危険に晒したり悲しませたりするなら俺はこの手を血に染めることだって厭わない。それだけ伝えておくよ」
「なら聞くが。お前がもし俺の立場だったらどうした?」
「どうしたってそんなの考えるまでもねぇ。しっかりと謝罪して自分の気持ちをぶつけるだけだろ?」
「そうか……。なら俺もそうするとしよう。初めてだ。欲しいと思った女が手に入らなかったのは」
「人間生きてりゃそれが当たり前だよ。お前が色々と恵まれていたからこそ今まで気付かなかったそれに今回気付いた。だったらそれでいいと思うぜ。なら俺はあいつらの所に行くからじゃあな」
「あぁ。俺達はこのままさりげなく帰らさせてもらう。見送りはいらん。それとお前」
「なんだ?」
「この首貰っていいか? それともし良かったらコイツの胴体がある場所を教えて欲しい」
「いいぜ。場所は――」
カイトとノエルは静かに部屋を出て行った。
和也は二人の背中を見送って思った。
「いい王子様じゃねぇか」
そして――。
どうやら我慢の限界がこちらも来たらしい。
「あはは……ここまでか……」
今までべルートに皆の視線が行き、床に零れた鮮血がバレずにいたが、どうやら失い過ぎたらしい。
意識がぼんやりとし始めた。
「今なら両親が言っていた言葉の意味が本当の意味でわかる。今から答え合わせに行くよ。それと、育枝すまん。約束……守れそうにない……でも……お前が生きていてくれるのであれば俺は……いやそのまま忘れろ……俺はあの世でも見守ると誓う。だけどお前と……後は遥と榛名……お前達は俺を忘れ、悲しむ必要すらねぇ……これからは好きな人と一緒に幸せで暮らせ。だから許せしてくれ forget everything 」
直後遅延発動型の魔法陣が出現しすぐに消える。
だが――。
視界がぐるぐるし気持ち悪い。
平衡感覚がなくなり、徐々に近づいてくる床。
ドスッ
何かが倒れる音がしたときにはもう和也の意識はそこにはなかった。
第二プライベートルームに響き渡る悲鳴。
綺麗なドレスが血で汚れること等お構いなく駆け付けた者達とすぐに救護班を呼ぶ者。
嫌な予感に駆られコートのホックを開けると、傷だらけの少年の身体がそこにはあった。
人体は繋がっているが肉が綺麗に切断された面が幾つもあった。
これだけの傷を負いながら苦痛に顔を歪めることなく平然としていた少年に少女達は一体なにを思ったのだろうか。
それは少女達にしかわからない。
――だけどこれだけはわかる。
少年の身体からは薔薇のように美しい血が溢れ出る。
そして綺麗な花が散るように。
命の灯が消えるのもまた一瞬。
科学が発展し魔術が生まれても人は死と言う概念から逃れる事は出来ない。
少年は詰めが甘かった。
たったそれだけ。
だけど、そのたったそれだけが。
取り返しのつかない過ちになる事だって。
――あるのかもしれない。と言うことだ。
――少年の心臓が止まった時刻。
魔術が発動。それと同時に少年の身体が突然出現した魔術の炎に焼かれ灰となり消え、魔術帝国の全員が一人の天才魔術師が最後に発動した魔術にかけられた。
かつて帝王の魔術師と呼ばれた者には息子はおらず、若き天才魔術師はこの世に存在したことがなく、あくまでそれは人々が平和を願い作った願望物語であると。
魔術帝国の為。
愛する者の為。
両親との約束を守る為。
命をかけて戦った者は一人寂しく平和の礎となり消える。
その後、すぐに――。
育枝が人前で笑みを見せることはなくなった。
「ばか……まだ大好きって伝えてない……」
例え記憶がなくても魂が心の底から愛した人間は忘れない。
心から愛していたからこそ……。
愛の力が天才魔術師の力を超えたのかもしれない。
魔術師は禁忌を犯すゴッドフィンガーの使い手となり敵の急所を一点突破する悪魔となるらしい 光影 @Mitukage
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