第22話 義兄妹の時間と皇族護衛編 13
時を少し戻して――十五時になった第二プライベートルーム。
再び集まった遥、榛名、カイト。
そして両国の護衛、育枝と女――ノエル。
遥たちはこの状況からさっきの妙な魔力反応がカイトの護衛の一人だったと確信する。
だが。
護衛が戻って来ない事に違和感を覚えたのかカイトとノエルが話していて中々本題に入れないでいた。
――。
――――。
「そうなるとアイツトイレ長くないか?」
「確かに気になりますね」
「やっぱり腹か?」
「可能性としては」
「まぁ良い。時期戻って来るだろう」
カイトは護衛の女――ノエルと会話をしていた。
それから納得したのか、
「待たせた」
と言って視線を遥と榛名の方に向けた。
第二プライベートルームの空気が重たくなり雰囲気が変わる。
育枝もないとは信じたいがもしもの事を考える。
それはカイトが実力行使に出てきた時の事を考え周囲の状況に気を付けた。
和也が頑張っている以上、こっちはこっちで上手い事やるしかないのだ。
「無駄話しは時間の無駄だろう。と言うわけで手短に行こうと思う。それでよいか?」
「えぇ」
遥が頷く。
「私もそれで構いません」
榛名も頷く。
「そうか、ならば問う。遥お前は俺と婚約をする気はあるのか? それとこれから俺とどうしたい?」
遥が一度深呼吸をして息を整える。
それから遥と榛名が最後の確認としてアイコンタクトをして意思疎通をする。
和也には申し訳ないが、国を任された者として、
――やっぱり今の気持ちを素直に伝えると。
これが魔術帝国女王陛下と第二王女としての答えだと。
「婚約の話しをあれから真剣に考えたわ。それで出た答えだけど――」
ようやく答えが聞けると頬が緩むカイト。
静かな第二プライベートルーム。
その静寂さが失われるか、このまま続くか。
それは誰にもわからない。
育枝の全身にも緊張が走る。
反応を間違えてもいけないし、遅れてもいけないからだ。
「――丁重にお断りするわ」
「はっ!? はああああああああああああああ!?!?!?!?!?!?」
奇声をあげるカイト。
そんなカイトを無視して遥が言葉を続ける。
「それと今後の関係だけど一国の女王陛下そして一国の次期国王としてお付き合いを考えているわ。それ以上の関係は残念ながら無理と言うのが魔術帝国の答えです」
「ホンキか!?」
「当然。私には心が決めた人がいます。最初は何度も諦めようと思った。だけどその人を見る度に心がときめいて無理だったわ。どんな時も私に笑顔をくれるその人を私は心から愛しています。だから婚約は無理です」
「良いのか? 本当にそれで? この事が父上に知れれば魔術帝国がどうなるかわかっていないお前達ではないな?」
「それは……」
遥の心に迷いが生まれた。
そのタイミングで榛名が口を開く。
「当然です。魔術帝国は今後も独立国として繁栄していきます。そちらが望むのであれば同盟を破棄し敵国となってもらっても構いません。ただしお忘れなきよう一つお願い申し上げます」
「と、いうと?」
「我が魔術帝国にはかつて我が国最強と言われた大魔術師にして帝王の魔術師吉野副総隊長の息子がいます。そして彼が七年ぶりに戦場に今日戻ってきました」
「だから?」
「彼の逆鱗に触れれば幾らアルトリア国と言え無事では済まないと言う事です。私がそして女王陛下が愛したその男がいる限り魔術帝国が滅びることはありません。なぜならほら此処を何処なのかを知っていながら無礼にも、そして大胆にも、今まさに入って来ようしているではありませんか?」
「なっ!?」
慌てて窓に視線を向けるカイト。
バリン。
ベランダのガラスをあろうことか魔術で破壊し手土産片手に現れたのは和也だった。
「こんな事を当たり前にする元大魔術師を誰が止められると言うのですか? 法律や国の因果関係等全て無視してその男は報復しに来ますよ?」
「お前無礼を知れ!」
「無礼? それはカイト王子貴方です。こちらが黙っていれば我が国の女王陛下に手を出そうとした不埒ものはどちらですか? それでも手を出すと言うなら第二王女としてこれ以上黙っているわけにはいきません」
「そうか。ならまずはその口聞けなくしてくれる。ノエル!」
「はっ!」
ノエルが動き第二王女を捕まえようとするが、間一髪の所で育枝がそれを止める。
「大丈夫ですか?」
「助かったわ」
「ここは私が」
「あぁー、待て待て」
コートで全身を隠して、無傷を装いながら火種を消しにかかる和也。
とりあえずここは大人の対応を心掛ける。
その為に持ってきた手土産だって今回はちゃんとあるのだから。
「まず遥と榛名にはこの亀甲縛りしたパンイチおっさんを、それとカイト王子? にはこの生首をあげるからよ。三人共落ち着け」
そう言って担いでいた者(物)をそれぞれの元に投げつける。
「「きもっ……変態じゃん」」
驚きのあまりお互いに助けを求めて、抱き着き身体をぶるぶると震わせる遥と榛名。
「なんだこの生首……」
血で顔がはっきり見えない為に気持ち悪い物でも見たように気分を害するカイト。
「おい。お前吐け!」
そう言って和也がべルートに声をかける。
すると力みだす。
「誰も尻から吐けとは言ってねぇ! 口から事情を吐け!」
その言葉に全員が思う。
「こいつが黒幕なのはなんとなくわかったけどお尻からって?」
和也がニヤリと微笑む。
「クソだ! ここに来る前に仕込みとして千五百CC入れて置いた!」
ドヤ顔で答えた、和也。
その言葉を聞いた遥と榛名が慌てて距離を取るようにしてべルートから離れる。
ついでにカイトとノエルも。
育枝は遥と榛名の前方に立ちふさがるようにして立ち構える。
「お前若い女の子の前で漏らすとかいい歳こいたおっさんのやる事じゃねぇぞ? 幼い娘さんだって二人いるのに敵国の女王陛下と第二王女の前でクソ漏らすとか一族の恥だぞ?」
「元はと言えばお前が元凶だろうがぁぁぁぁ!」
「ならもう千五百いくか?」
「わかった。事情は話す。だからこれが終わったらトイレを貸してくれ。なんなら監視付で構わない。拷問の前にトイレだ。いいな? トイレを貸して欲しい。個室で扉を開けたままでもいいからトイレだ。いいな? 約束だぞ?」
ここまでトイレを懇願するべルートに白い目を向ける遥と榛名。
今まで敵国の人間がここまでトイレを懇願して来たことは人生一度もなかった。
だけど育枝はやれやれと手を頭にあてて「またか……」と言った。
そして通信機を手に取り、部下に「至急清掃道具と囚人服と下着、後は消毒液を持って第二プライベートルーム前で待機。それと念の為に坂本総隊長にも来てもらえ」と指示を出した。
「えっ、アイツ漏らすの?」
「それマジで嫌なんだけど?」
「うそよね?」
「冗談抜きで止めてよ?」
焦る遥と榛名。
だがこうなった以上全てはべルートの我慢強さに全てをかけるしかない事を育枝は知っている。
「それは……あの男次第ですね……」
「ってことだ。手短に吐け!」
「わかった。俺はリーシャン国の大魔術師で名はべルート――」
ここからべルートは腹痛に耐え、顔色を青くしながら語り始めた。
途中「うぉぉぉぉぉぉ!?」と情けない声が何度か入ったが、状況が状況だけに誰も文句を言わなかった。と言うか早く事情を話して欲しいのとコイツをなんとかしたい一心でカイトたちも黙って話しを聞いた。その中で生首の正体を知ったカイトは自身の服が汚れるのを着にすることなく抱え抱きしめた。
「そうか。だとしてもお前が俺の為に働いてくれた五年。忘れはせん。なにより今までご苦労であった。お前がくれた時間は偽りだったのかもしれんがそれでも俺はお前を認めていた。一足先にあの世で笑って俺を見ておれ。お前は誰が何と言おうとアルトリア国の誇り高き従者だ」
それを見た和也はコイツもいいところあるんだなと思った。
いや、いいところがあるからこそ女好きであっても王子をやっていけるのだろう。
だからゴッドフィンガーを一発お見舞いしてやろうと思っていたが、それは止めた。
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