第22話 義兄妹の時間と皇族護衛編 12


 今度は数に任せた、第三魔術(ノーマル級)魔法陣が出現する。


 それはバチバチと音を鳴らし直径十センチほどの小さくて黄色い魔法陣。

 そこから放たれた一筋の閃光がべルートに向けられて十三個放たれた。


「攻撃に力を使い過ぎたか」


 それはただの第三魔術。

 だが和也の魔術練度は高く、そこら辺の一般魔術師が使う魔術を大きく凌駕している。

 お互いに死の選択を突きつけあう。

 舌打ちするべルート。


「ここまでマルチタスクで魔術を使うとは……」


 和也の秒で完成する魔術にべルートは内心イラっとした。

 魔術の発動から行使までが異常に早く、それも複数の魔術を同時に扱う事が出来るからだ。これはかなりの修行が必要であり、並大抵の努力では幾ら第三魔術とは言え十を超える同時展開は大魔術師でも一苦労する領域である。

 ただの魔術師ではないことはわかった。だがここ数年彼のような大魔術師はデータベースで見た事がない。何年振りかに忘れていた死の恐怖が心の中で芽生えたべルート。第三魔術とは言えあれだけの数を受ければ即死は免れない。

 そう判断し風の刃三本を自ら破棄し、維持に使っていた魔力を使い再び防御魔術を使う。それは風の刃と同じく第七魔術で出来た風の盾だった。盾に触れた攻撃を切り裂く力を備えている。それを広範囲に展開する事で防御する。


 すると和也が苦しい顔をしながらもさらに魔術を使ってきた。


 再び雷の槍を一本作り、空中で放つ。

 それはべルートの身体ではなく和也の左肩を貫き、地面に衝突する。


「――!?」


 べルートは驚いた。

 まさか自分の魔術攻撃を受け、強引に風の刃を二度も回避するとは思いにもよらなかったからだ。すぐに風の刃を操り追撃したいがそれはできない。

 今まさに閃光の連撃を受けており、そこまで頭が回らないからだ。


 第七魔術なしでここまで自分を追い込んでくる男にべルートは冷や汗をかきながら質問する。


「お前……一体何者だ?」


 これはもう無名の魔術師にできる所業ではない。

 これは何と言うか、歴戦の魔術師が第七魔術を使うだけの魔力がないときや第七魔術を扱う事が何かしらの理由で出来ないときに使う戦法と呼んでもいい。

 べルートは思う。

 なぜこれ程の実力を持つ者が魔術帝国の軍人で役職持ちではないのかと。

 確かにまだ見た目からしてかなり若い。だが実力だけで言えば十分に強い。

 ちょっとでも隙を見せれば、逆にこちらがやれてしまうだけの実力を確かに持っている強敵。


「今はただのフリーの傭兵だよ」


「だたの傭兵か……」


 べルートは鼻で笑った。

 本当にそうなら魔術帝国は軍事力にかなり余裕がある事になる。

 なぜならこれだけ強い男を野放しに出来るだけの余裕があると言う事なのだから。

 そうなるとはったりかと考えるのが普通だが、目の前の男からそう言った感じは一切しない。


「お前ほどの人間が自由に動ける身とは……魔術帝国もまだ地に落ちていないと言うわけか」


「そうかもな」


 和也は痛む左肩を抑えながら答える。

 そもそも普通に考えて魔術帝国は未だに死んだ元副総隊長――和也の父の威厳がまだ僅かばかりにある。その威厳をなんとかギリギリの所で維持しているからこそ魔術帝国はまだ独立国として存在しているのだ。そんな偉大な父の背中を追いかけ続けていなければ今頃とっくの昔に負けていたと和也は痛感していた。


(そろそろいけるかな……)


 和也は平和ボケした頭に聞いてみる。大魔術師相手に時間がかかる第七魔術使おうとしたところで相殺もしくは封殺系統の魔術を使われるのは目に見えていた。魔術もスポーツと同じで感覚が大事になってくる。そう言った意味で今まで第六魔術を中心に感覚を呼び戻してきたわけだが、なんとかギリギリのギリの所で頭がようやく七年前に戻って来てくれた。


 和也は大きく息を吸いこんで、ゆっくりと吐き出す。


「全力で来い! 次の一手で決める。悪いがこちらも時間がないんでね」


 べルートが感じ取る。

 雰囲気が変わった。


 そして再び風の刃を作り七本の同時に放つ。


 空間が切り裂かれる音と共に七方向からの攻撃。


 たった一つでも――当たれば身体を切断する。


 緊張感が走る。


 そして。


 和也が目を瞑る。


「諦めたか」


 べルートが勝利を確信しニヤリと微笑んだ。


 刹那、和也の胴体を首、左肩、左足、右肩、右足、お腹、正中線で風の刃が切り刻んだ。勝負は決した。


 ――そう思った。


「どうした? もう終わりか?」


 だけど聞こえてきた声にべルートの表情から笑みが消えた。

 慌てて風の刃で再度攻撃を試すが、風の刃が消滅していてそれができないと気づいた。


「まさか……」


 そして気づいてしまった。

 なぜ風の刃が消えたのか。

 あの一瞬で自分達が今立っている大地が焦土と化したのかを。

 その事実に遅れて気付いた。


「ん?」


「な、なぜお前がその魔術を扱える?」


「これか? だってコレは俺の父親が作った固有魔術だからだろ? 息子の俺が使えても可笑しくないだろ。一子相伝なんつって……あはは」


 後頭部を手でかきながら不敵に微笑む和也。


「招来王麒麟。その様子から知ってると思うが、これが魔術名だ。この世に光よりも早い物体は存在しない。そして雷は全てを撃ち落とす」


 和也の身体に纏わりつくようにしてバチバチと音を鳴らす青白い雷が身体に纏わりついている。かつて帝王の魔術師が使った最強クラスの防御魔術の一つである。あまりにも非情で圧倒的な防御魔術であることからこれを使われたら同じ帝王の魔術師ですら苦戦を強いられたとされる魔術。その代わり魔力消費量が半端ないと聞くが、今はそんな事は問題ではない。


「悪いな。これ発動に周囲の状況を数値化とか自分の身体をパラメータに変換して数値化とか結構大変なんだよ。だけどその計算がようやく終わった。それでまだやるか?」


 和也はゆっくりと歩みべルートに近づく。

 圧倒的な力の正体にようやくべルートが気付いた。


「思い出した。七年前、活動期間一年の為大魔術師として正式に認定されなかった大魔術師候補者でありながら別名悪魔と異名を持つ齢十の天才少年がいたことを。そしてその才を世間は大いに評価した結果、本来であれば大魔術師候補者である悪魔が大魔術師として活動する事を世間が暗黙の了解として受け入れた。それがお前の正体と言うわけか……?」


「さぁな……昔そんな事も言われていた気もするけどもう忘れたよ」


 直後和也が放った雷撃を受けたべルートの意識が失われた。

 それから巻物を回収した和也は魔術を使い簡易ロープを作ると同時に服をはぎ取りパンツ一枚になったべルートに巻き付けた。パンツがあるだけ和也の優しがあると言える。


 そのまま変態露出男となったべルートと一緒に首だけになった男の生首を担ぎ急いで王城へと戻る和也。

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