第21話 義兄妹の時間と皇族護衛編 11


「まだだ!」


 和也は第六魔術(天災級)を使い、雷の槍を五本作り上空に待機させる。

 その時間。

 発動から僅か一秒。

 その一秒の時間で風の刃が和也の周りを回転し取り囲む。


「戦闘慣れしてやがるな……」


 和也の読みは当たっていた。

 リーシャン国でもスパイ統括者にあたるべルートは今まで数々の裏切者を殺してきただけでなく戦場でも最前線に出るなど国の為に十年以上働いてきた。その為、戦闘経験と言う意味ではプロフェッショナル。


「冷静な判断だ。それにさっきの判断。命と己の肉体へのダメージ判断素晴らしかったぞ。お前ほどの実力ならば大魔術師候補者になれるかもしれんな」


「そりゃ、どうも!」


 強がってはみたものの状況は圧倒的に不利。

 やはり第六魔術(天災級)と第七魔術(神災級)ではそもそも魔術の持つステータスが違い過ぎる。

 仮に風の刃を縦横無尽に戦場で振るえばその時点で多くの者が死ぬ殺傷力があることは間違いない。対して和也の魔術は単一個体やその周辺に対してしか効果がない。広範囲魔術も当然あるが、それは破壊力に欠ける。故に破壊力、殺傷力、効果範囲等総合的に見たらやはり決定的な差があるのだ。


「やっぱり大魔術師となるとそこら辺の奴らより火力が違う魔術を当たり前に使ってくるか」


 一見単調的な動きを見せる風の刃。

 だけど単調的だからと言って油断すれば一瞬で命が亡くなる。目の前の男は人が油断する動きを知っている。それをわざと誘い、相手が油断した瞬間にその命を絶つことを熟知している、そう思わずにはいられない。ゆえに、神経を研ぎ澄まし続けなればならない。もし集中力の糸が切れたその時は、両親の元に行くことになるのだろう。人間の集中力なんてものは時代が進化してもそんなに変わらない。もって十五分。いやこのような状況では数分と思ったほうがいいだろう。


「さて次はこれだ」


 べルートがほほ笑んだ。

 次の瞬間、円を描き動いていた風の刃が一本円の中に入り円を跨ぎながらやってきた。

 和也は限界まで研ぎ澄ました勘だけを頼りにサイドステップで躱すと同時に待機させていた雷の槍を五本べルートに向けて放つ。


「ぐはっ」


 第二段として飛んできた風の刃が腹部にかすった。

 単純な攻撃だがこれが永遠に続くと思うとまさに絶望的だった。

 だけどチャンスは訪れた。

 べルートが大きく後方にジャンプをして雷の槍を躱すがそれは追尾性能を持つ槍。

 ただ躱すだけでは意味がないし、ただの障壁では第六魔術(天災級)を五発受けきることは不可能。それを瞬時に判断し、和也の周りを包囲していた風の刃自身の元へと戻し雷の槍の切断に使う。


 ようやくできた隙に和也が今しかないと思い魔術を使う。


「行けるか……ノーザンライトニングアロー!」


 魔力で作った弓を構え、青白くバチバチと音を鳴らす矢を構え、べルートに向けて撃つ。と同時に上空に出現した巨大な魔法陣からの落雷もべルートに向かって降り注ぐ。

 凄まじい雄たけびをあげ、こちらも周辺の空気を切り裂いた。

 青白い光が見えたと思った時には轟音が鼓膜を破る勢いで聞こえてきた。それも二箇所同時。

 正面と上空から最速で襲い掛かる二撃。

 片方だけでも直撃すれば死を免れない破壊力はある。

 それにタイミングは完璧。


 風の刃は今槍の切断に使われている。


「悪いな……人殺しは、てめぇだけの専売特許じゃねぇ!」


「貴様……!?」


 ようやくべルートの表情から余裕の笑みが消えた。


「舐めるな!」


 直後だった。

 風の刃がさらに三本出現した。

 驚く和也。

 そして新たに出現した風の刃はべルートを護るのではなく勝利を確信した和也の頭上、正面、後方から襲い掛かって来た。

 一瞬にして両者が死を実感する戦場へと変化した。


「しま――っ!?」


 つい舌打ちをする和也。


「奥の手は常に残しておく。これが戦場での鉄則だ、愚か者!」


 すると今度はべルートを中心に竜巻が出現した。それは和也の身体すら吹き飛そうとする。そして竜巻の風にのまれれば身体を肉片にされることは周囲の木々が根こそぎ巻き込まれた時点で気付いた。なによりそんなことになればその前に正面から今も飛んできている風の刃に身体が真っ二つに切断される。死のオンパレードに頭が考える事を止めてネガティブ状態に入る。それは思考力低下、判断力低下、心理的影響による身体能力低下と最悪の状態を作り出していく。あの竜巻は第六魔術。効果範囲を抑え一点に防御を集中したそれは和也の攻撃を全て弾き飛ばす。


「間に合うか……」


 和也はまず正面の風の刃だけに集中する。

 身体がこわばり硬くなるが、それでもこのまま何もしなければどの道死ぬと言い聞かせて足腰に力を入れる。そのまま竜巻の影響を受けて身体が吸い込まれていくその状態を利用し命を繋ぐ一秒弱しかないドンピシャのタイミングで大きく前方へと飛ぶ。足が力離れたことで身体は物凄い勢いで竜巻に吸い込まれていくが、そのおかげで迫りくる風の刃はなんとかなった。


 だが――。

 まだ終わりではない。


「今度はこっちか……チッ、めんどくせー」


 第六魔術の連発に魔力残量が心配になって来たが、今はそんな事を気にしている場合ではない。体内の魔力残量を瞬時に計算し、周囲の状況も同時に確認していく。


「俺は風魔法は得意じゃねぇんだよ、クソッたれが!」


 叫びながら和也は自身を中心とした竜巻を起こす。

 それはべルートと同じ第六魔術で全く同じものだった。ただし風の向きは逆向き。

 高気圧と低気圧のように逆向きに風を巻き上げ、力を中和する。

 これは第六魔術でも比較的に簡単な魔術なため、和也もマスターしている。

 二つの竜巻はお互いにお互いを呑み込もうとして、回転する駒のように何度も衝突し消えていく。


 かと思いきや今度は七本の風の刃が空中で身動きが取れない和也に向かって地面から飛んでくる。

 べルートの魔術師としての本能が和也を甘く見るなと警告していた。

 彼はただの魔術師ではなく、自分達と同じ一流の魔術師だと今までの戦闘経験から察した。


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