第5話 闘技大会への推薦

「さっきクレハとすれ違ったけどパーティへの勧誘でもされていたのかしら?」


クレハが出て行って入れ替わるようにフィーカが入ってきた。


「そうです」

「まあヘルマン君は罠で討伐をしているようだしパーティはそこまで必要としない感じだから別に組まなくてもいいけど。あの子一度決めたら押し続けるわよ」

「うぅぅ……」

「ヘルマン君はずっとルイスと一緒に過ごしてきたものね。人と関わるのが不慣れなのは致し方ないけど、クレハに目をつけられたのはご愁傷さまとしか言いようがないわ」


安に諦めろとフィーカは遠回しに言ってきた。

彼女の表情を見るに事実なのだろう。

ヘルマンもヘルマンでコミュ障体質が災いし逃げるに逃げられない状況になっていた。


「まあ落ち込むのはそのくらいにして、今日呼び出した本題ね」


室内が真面目な空気に切り替わった。


「今日呼び出したのはこの辺境都市ガレリオで闘技大会が開かれることに関係するんだけどヘルマン君は知ってる?」


ヘルマンはコクリと頷いた。

数日とはいえこの町で過ごしてきたため闘技場が存在し近々大きな大会があることは聞いていた。


「大きな大会が開かれることは聞いていました……それと何か関係が?」

「うん、実はあなたに出てほしいのよ。その闘技大会に」


ヘルマンは思わず眼を見開いた。

ヘルマンの反応はフィーカにとって想定内なのか話を進めた。


「ヘルマン君が罠師なのは承知の上なの。貴方はあの森で生きてきた。つまりあなたは罠以外の戦闘もできる……そうよね?」

「いいえ罠しか張ることはできません」


フィーカはじっと見つめるがヘルマンはそのままだ


「ごめんなさいね。嘘をついていないか魔術で確認させてもらったけど本当に罠しか張ることができないようね。でも冒険者をこのギルドに入る前に気絶させたでしょう。彼がこのギルドで一番近接戦闘では強かったのよ。闘技大会の主催者の辺境伯からはギルドで等級は問わずにギルド支部長が最も強いと思う冒険者を寄こせってね」

「あの、クレハさんは?」

「クレハはあの闘技場は殿堂入りで辺境伯も寄こさなくていいとおっしゃているわ」

「……けど僕は何でもできるおじいちゃんに比べたら…………」


フィーカは気が付いた。

ルイスはパーティに居た頃それこそゲルマン勇者の再来とまでいたわれたほどの万能の天才だった。

もし彼に育てられたヘルマンは如何に強かろうが魔の森林で生きていく実力が無いと判断すれば弱いと信じかねないだろう。


「うーん……ヘルマン君悪いけど君の住んでた森ではクレハでさえ3日生存できれば最良の結果になる場所なの。そこで生きていた、たったそれだけで闘技大会に推薦できるだけの資格がある。だからお願い出てくれる?」

「じゃあ武器が支給とそれをいただけるなら……」

「わかったわ。手配するから注文は鍛冶屋に言ってくれる?武器の好みもあるだろうし」


ヘルマンは祖父に比べることがコンプレックスに成っている。

ここは一つ荒治療を掛けようとフィーカは思った。


「では鍛冶場ごと貸していただけませんか?

鉱石は鉄を20キロ、銅を15キロ、銀を1キロほどいただきたいのですが……」

「中々の量を使うのね。しかし銅に銀なんかはあまり武器には向かないけど何に使うのかしら?」

「銅と銀は糸に使います。いろんな色があった方が近接戦闘には良いので」


糸だけではないだろうがフィーカはもっと高い物を頼むかと思っていた。

オリハルコンやミスリルといった手合いだ。


「もっと高い物でもいいけど変える?」

「いいえ高い物がいつも使えるとは限りませんので安く手に入りやすいもので十分です。それに鉄は場所によってはかなり貴重なモノと聞きましたし鉄が20キロも貰えるならそれでも十分すぎます」


一理ある


鉱山資源は冒険者たちもオリハルコンやミスリルと言った上級冒険者に与えられるタグに使われる魔法金属に目が行きがちだが地域によってはそもそも鉄などの硬い金属が手に入らない土地もある。


「最高の道具は常に使えるとは限らない。そしてそれを可能にするのが他でもない人器」


人器は壊れこそするがその翌日にはなぜか治って授かった者の枕元に戻っている。


「ほとんどの人種が人器を優遇する理由の一つね」

「ええ、しかし鍛冶屋は廃れることは無い」


人器が壊れれば買った武器を使う

それだけだ


「なぜか知らないけどヘルマン君は人器のことになると熱くなるのかしらね。ごめんなさいねクレアとの会話ほんとは聞いてちゃってたの」


舌をペロッと出すフィーカ

エルフ故にその歳はヘルマンの想像する数倍は歳をとっているのだろうが見た目相応のことをすると若く見えるから不思議だ。

実際見た目は若いのだがどうも心が年齢と合っていないような無理をしているわけではない。ただ、視えるのだ。

かつての投影のようなものが


「わかりません……おじいちゃんと一緒に過ごしてきました。僕はおじいちゃん曰く何にも興味を示さなかったそうです」

「手紙にも書いてあったわね…それで?」

「ただ一つだけ興味があったのは……」


ヘルマンの放った言葉はフィーカにとって、

世界にとって

あの勇者ですら叶わなかった脅威を意味した


------------------------------------------------------------------------------------------------

残弾放出完了

これより完結ボタンを押します

さらば

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

琥珀を棺とした英雄 スライム道 @pemupemus

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ