第3話 閑話 永劫の時を生きる種族
ヘルマンが退出した後フィーカは一人手紙を見つめていた。
「自分の孫である大和勇者の末裔の歴史ね」
フィーカへ
儂の育てた捨て子がそっちにいくだろう。名前はヘルマンだ。
お前がこの手紙を読んでいるときに儂はもういない。
あの子にある程度の常識は叩き込んではあるが実物を見てきたわけじゃない。
どうにか目をかけてやってくれ。
この文章を見るだけならヘルマンを呼び出すことは無かっただろう。魔法で意図的に隠された文字を見るまでは
儂が余生を過ごすと決めた魔の森林と呼ばれる森には数十年に一度死体が見つかる。そのどれもが大和勇者の末裔の顔つきをした幼子ばかりだ。一度だけ幼子が死ぬのを見たことがある紙でできた扇子を持った少女だったぞい。大和勇者の修行は死人が出るほど過酷と聞くが本当かどうか怪しい。ヘルマンの顔つきは大和勇者の末裔の顔ではないし5歳の時に拾ったが一応そっちでヘルマンが8歳と推定される時期の3年前くらいまで絞って大和勇者の末裔たちが修行中の事故で死者が出ていないか確認しておいてくれ、後ヘルマンに出身地を聞かれたときはただの森で通すよう言ってあるのでな。くれぐれも内密に頼むぞ
死人がこんな爆弾を置いていくなんて思いもよらなかったろう。ヘルマンの出生時期を逆算するように言ってあることからおそらくこの手紙を書いたのはだいぶ前のことなのだろうがそれにしても魔の森林で幼子から育てたことが驚きだった。魔の森林の環境については勇者の英雄譚で語り継がれていた。その環境は、どんな環境に対応した生物でさえ児戯に等しいと思えるほどの天変地異が日ごろから行われているとされる環境だ。
そもそも勇者たちは魔法のごり押しで魔の森林を抜け出したと聞く。
それをどのようにして生き延びたというのだ。
ルイスも魔法が得意ではない。どちらかというと武術主体の人間だがそれでもありとあらゆる環境に適応できるようにそれ相応の準備を終えてから魔の森林に入ったのだ。
しかしヘルマンはあの森から脱出しただけならまだしも5歳から17歳まで生き延びているのだから。何かしらのからくりはあるのだろうがそれでも異常だ。
まるで魔の森林から生まれてきたとしか考えられないような予感が彼女にはあった。
「しかしねえあの子、狩人でないのなら何なのかしらねえ」
ルイスは嘘を言うような人間ではない。隠し事や腹の探り合いが苦手なタイプだ。故に彼が言っていることは本当であると理解する。
彼の予想が外れているのかもしれないということは信じられなかった。彼の勘は人を見抜く。彼が関わろうとしないモノは不倫や浮気を隠してしていたり犯罪まがいのことを裏でやっている連中ばかりだった。故に信用できた。
「もし、万が一にでも大和勇者の末裔だったのなら当時その婚約者だったゲルマン勇者の末裔のレイナ様と会ったらどうなるのでしょうね」
実はもう調べは付いていた。この辺境都市の領主の娘であるレイナが婚約者である同い年でもある大和勇者の末裔が死んだという報せを聞き部屋に閉じこもったという話を聞いたからだ。領主の娘であるレイナの年齢は20歳、ちょうどルイスの予想した大和勇者の末裔が死んだ時期と重なっていた。
「でもまあ確定的ではないわよね。そもそも人器は大和勇者の末裔たちは全て刀であったと言われているしね」
意図的に隠された真実
死んで当然の場所で生きていた子ども
この二つのピースが交差する日は訪れるのか
それは永劫の時を過ごすとされるエルフですら解らなかった。
「まあとりあえず領主様に働きかけてみましょうかね」
たった一枚の手紙は良くも悪くも時代の変革を変えるきっかけになったのかもしれない
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