慶長19年9月秋月(その2)
・・・興長の返事が届いた。
佐々木一族の無三四への敵討ちは細川の大殿は裁可しておらず、このような時世に騒ぎ事を起こす佐々木一族は許しがたいという至極まっとうな内容だった。話したいことがあるので杵築に来てほしいと、興長は、無三四をしきりに誘っていた。
『佐々木小次郎との果し合いを諸国廻行の武者修行の終わりとしたので、今は本阿弥光悦どのの知遇を得て鷹峯で新たな道を模索しております』
と丁重な断りの書状を送った。
・・・書状を送るとすぐに、無三四は孫兵衛に別れを告げて福岡に向かって出立した。
秋月を出た山道の峠で、武装をした十人ほどの侍が小藪で待ち伏せていた。
「宮本無三四か?」
白絹のような総髪の老人が、両手を広げて誰何した。
「いかにも」
「佐々木有隣斎じゃ。非道にもお主に惨殺された婿どのの敵討ちに参上した」
「小次郎どのとは、細川・黒田両家の公認のもと、長府藩に検使を頼んだ正当な武術試合じゃった。遺恨があってはならぬ」
「わざと試合に遅れた上、見たこともない恐ろしい武器で、婿どのの頭を叩きつぶした。許しがたいことじゃ。後家となった娘に代って成敗いたす」
有隣斎は長刀をすらりと抜いた。
「待たれよ。徳川と豊臣が、再び天下を二分して覇権を争う戦がはじまろうとしている。このような小さな争いでも幕府に知れたら細川・黒田の両藩はお咎めを受ける」
「小さな争いとは何じゃ!われら佐々木一族にとっては存亡をかけた戦いじゃ」
鶴のように細い老人は口をきわめて無三四を罵倒した。
それを合図のように、日はまだ高いが薄暗い山道の左と右の小藪から槍が突き出された。
無三四は、とっさに長刀と脇差の両刀を同時に抜き、右手の長刀で右の槍を払い、左手の脇差で左の槍を払った。
さらに突っ込んでくる槍を両刀で挟みつけて跳ね上げた。
そのスキに正面の有隣斎の懐に跳び込み、
「許されよ」
と、鳩尾に柄尻を打ち込んだ無三四は、両刀を肩に担いで峠道を駆け下った。
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