慶長15年5月舟島(その3)

すかさず、無三四は左肩を突き出すようにして踏み込むと、気圧された小次郎は後退した。

波打ち際まで後退した小次郎の白足袋は波に洗われはじめた。

ここで小次郎は、

「きええっ」

と甲高い声をあげ、無三四の喉元目がけて長剣の切っ先を突き入れた。

だが、足元が波打ち際の砂地なので、足の踏ん張りがきかず、小次郎の突きは弱々しいものとなった。

長い木剣を振り上げた無三四は、小次郎の長刀をなんなく打ち払った。

無三四の木剣が五尺もあるのをはじめて知った小次郎は恐慌を感じたのか、素早く退いた。

むやみに攻め込むことができなくなった小次郎は、半歩前に出ている無三四の左足を刈りに来た。

しかも、刈りに来てすぐに退く・・・。

小次郎はこれを数度繰り返した。

低く短く振る小次郎の長刀を、長い木剣で振り払うことができない無三四が、今度は退く番だった。

波打ち際からようやく抜け出した小次郎は岩礁に足場にして高く跳び、上段に構えた長刀を袈裟に振り下ろした。

無三四が退いてこれをすかすと、小次郎はそこからさらに踏み込み、左下の長剣を燕返しに斬り上げた。

「ぶ~ん」

虻のような音を立て、無三四は長い木剣を斜め右下から振り上げた。

長剣が無三四の首を切り落とすより先に、無三四の木剣がおのれの脇腹を打つと瞬時に察知した小次郎は、長刀の切っ先をとっさに下に向けて木剣を受け止めた。

それでも、小次郎の長刀と無三四の木剣はからみあって小次郎の脇腹を打った。

「うむ」

と、うなって片膝突いた小次郎だが、そのままの姿勢から長刀の切っ先を再び振り上げた。

・・・だが、無三四の木剣が、小次郎の長刀を振り払ったので、彼の長刀は半間先の砂浜に飛んだ。

「おのれ!」

唇を噛んだ小次郎が脇差を抜き、体当たりをするようにからだごと突っ込んできた。

・・・それより早く、高く跳び上がった無三四が、櫂のような五尺の長さの木剣を上段から振り下ろしたので、哀れ小次郎の頭蓋は西瓜のように粉々に砕け散った。

検使があわてて駆け寄り、小次郎の死と敗北を認めた。

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