慶長12年12月京(その6)

「どうです。ここで少し土でもこねてみては」

光悦は、年の離れた弟をさとすようにいった。

「ご迷惑ではないのですか?」

「なんの、なんの。高峯はとても寒い。どうにも気乗りがしないのです。年内に引っ越しの準備だけはしておいて、春風が吹きはじめてから越せばよいでしょう」

光悦の誘いに甘えて、陶芸の職人が住む長屋に無三四は住むことになった。

赤子は母御がめんどうを見てくれるという。

「名は何とします?」

母御がたずねた。

二十五年前に、お吟姉が父の無二斎に同じようなことをたずねたのを思い出した。

・・・まさか捨丸ともつけられない。

父とじぶんで二、三、四を使ってしまったので、そのあとの五の五郎とし、姓は通称の宮本ではなく一族の新免とした。

「新免五郎。侍らしいよい名ではないですか」

母御は喜んだが、この子が大きくなって侍になるかどうかは分からない。

・・・なってほしい気もしたし、なってほしくない気もした。

この子が成人するころには、侍など無用の時代になっているかもしれない。

翌朝から、無三四は陶芸の工房で土をこねて日がな一日過ごした。

・・・しかし、これがうまくいかない。

まず粘土に水を加え、かたちを造る硬さにするのがうまくできない。

やっとそれができると、こんどは轆轤を回すこつをおぼえるのにひと苦労した。

せっかく思いどおりにかたちを作ったものの、粘土の肉厚が均一でないためにたやすく型くずれしてしまう。

やっと苦労してかたちにして釉をかけて焼いてみると、どうにも不細工なものしかできないのに、腹を立てて叩き割ってしまう。

・・・それを際限なく繰り返す。

「腕のよい職人でも、それなりものを造るまで五年はかかる。それを五日で覚えようとするのは虫がよすぎますな」

と、光悦は笑いながらいった。

「無三四どのは、おそらく天稟の才だけで天下無双の剣術家になられたのでしょう。強すぎて怖くて近寄りがたい。あなたさまの挙措には遊びというものがまるでない。いつも恐ろしいほど殺気走っている。かわいそうなおひとだ」

・・・これはこたえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る