慶長5年1月京(その2)
正月の振る舞い酒に酔って寝込んだ家正隊を、深夜に襲う兵があった。
無三四は、雨戸を蹴破る音で、目が覚めた。
「出会え、出会え」
暗闇の中で、怒号がする。
夜目にも白く光る刃をかざして乱入した敵に向かって、無三四は刀を振った。
五人は斬っただろうか?
残った黒覆面の男三人を、庭先へ追いつめた。
新助が、
「殺すな。生け捕りにせよ!」
と叫んだので、無三四はたちまち三人の腕を斬り落とした。
うずくまる三人の男を、旗本たちが縛り上げた。
新助は、斬られた肩を押さえながら、
「お主は、恐ろしいほど強いのう。まだ若いのに・・・」
と、荒い息をついた。
夜襲をかけたのが浮田左京亮の配下と知った家正は、捕らえた三人を伏見の秀家の元へ送りつけた。
「亡き秀吉さまの惣国検地にかこつけて、備前の領地を丸ごと独り占めしたうえ、臣従を強いる秀家さまへの、重臣の左京亮、戸川達安、岡越前守、花房秀成たちの憎しみは凄まじいものがある。その憎しみは、今では家正さまに向けられておる。理不尽じゃて」
傷を負った肩を白布で巻きながら、新助は長々と愚痴を並べ立てた。
いろいろと悶着はあったが、中村家正は秀家の元を辞して、越中で蟄居することになった。
「いっしょに越中へ来んか。酒も魚もうまいいぞ」
新助は、しきりに無三四を誘った。
もとより、無三四には、その考えはなかった。
あるのは、
『吉岡憲法を倒して日の本一の剣士になる!」
その一念だけだった。
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