慶長5年2月岡山
家正が、無三四や家来衆を引き連れて京へ出立した昼下がり、稽古を終えた捨丸は、家正の側室のお咲きの方に茶に招かれた。
香を焚きしめた座敷で、京から取り寄せた美しい干菓子が、高坏に盛られていた。
「捨丸とやら、作州でたいへんな目にあったと聞いたぞえ。この咲に話してたもれ」
細面に切れ長の美しい目をしたお咲の方は、みずから煎じたお茶を、捨丸の膝元へ押しやった。
捨丸は、伊賀守の愛妾の子としてどのようにして生まれ落ち、玄蕃にさらわれ、奴隷として遊郭に売られ、無二斎の元へ取りもどされたかを語った。
お咲の方は目に涙を浮かべ、ときに
「おお」
と感じ入りながら耳を傾けた。
特に因幡の銀山の遊郭の話になると、目を輝かせ、詳しい話をせがんだ。
「人の売ったり買ったりは、まことに恐ろしいことでございます」
話はじめると、お咲の方は膝を進め、捨丸に息のかかるほど顔を寄せて聞き入った。
「女郎は百人ほどいたようです。客は、門の横の格子の中の女郎の品定めしたのち、番頭と揚げ代を決め、下足棚に履物を納めてから、侍は大小を、町人は巾着袋を帳場にあずけて、二階の女郎の部屋へ揚がります。これは、客が気に入った女郎を連れて簡単に逃げ出させないための方便です」
「店は、夜おそくまでかえ?」
「いえ、店は夜明けから日没までと決まっています。これは侍や町人が大事なお勤めをおろそかにしないため、藩と取り決めたことです。それでも客は、お侍も町人も敷きも切らずやって来ました」
「昼の日中にのう」
お咲の方は、目を丸くした。
次の日も、捨丸お咲の方に呼ばれ、再び遊郭の話になった。
「そなたは、昼の日中に男と女が交わるのを見たことはあるのかえ」
お咲の方は、下から捨丸をさぐるようにして見て、傍らの螺鈿の蒔絵の美しい箱から巻物を取り出した。
それは、男と女がさまざまにからみあう情交の絵図だった。
「このようなことを、昼の日中から?」
捨丸は、男と女が卑猥にからみあう絵図を見るのは、はじめてだった。
お咲の方は、捨丸ににじり寄り、肩を抱き寄せた。
お咲の方のかぐわしい匂いに包まれた捨丸は、思わず気を失いそうになった。
その卵のように白い顔をしげしげと見ると、目の周りが酔ったようにほんのりと赤く、目もうるんでいる。
捨丸が肩を抱き寄せて唇を重ねようとすると、顔をそむけてやんわりと押しのけ、目を伏せたまま、巻物を箱に納め、衣擦れの音も軽やかに部屋を出て行った。
その夜、家中が寝静まったころ、長い廊下を歩く女の絹ずれの音が、微かに聞こえて来た。
音を立てずに襖を開けて、白い顔のお化けのような老女が、手のひらをひらひらさせ、捨丸を招き寄せる。
老女の案内で、長い廊下を幾度も折れ曲がり、捨丸はお咲の方の寝所にようやくたどり着いた。
暗闇の中を、かぐわしい香りがする方へにじり寄った捨丸は、いきなり手を引き寄せられた。
とろけるように口を吸った捨丸が、夜着の裾を割って手を太ももの奥へ滑りこませると、お咲の方は貝のように固く閉じて、侵入を許さない。
そこを諦めた捨丸が、大きな桃のような尻の窪みをなぞるようにして、後ろから手を滑らせると、そこは防ぎにこなかった。
ようやく、女の秘所の柔らかなところを、指先でまさぐることができた。
餅をこねるように、掌でゆっくりと揉み上げると、やがて湿ったものが指先にからみつき、秘所がみずから律動して、指先をその先へと導いた。
「ああ」
と声をあげてのけ反ったお咲の方は、捨丸の肩に細い顎をあずけ、屹立したものに手を添え、太ももの奥の、たぎった蜜の坩堝へといざなった。
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