慶長5年10月岡山(その1)
宇喜多軍が大敗したと聞いた城の留守居役は、すぐさま城内の食糧を奪うと一族郎党を引き連れ、雲を霞と逃げ去った。
・・・保木城でも、岡山城と同じことが起こっていた。。
留守居役と入れ替わるようにして、浮田左京亮の侍大将の石垣玄蕃が保木城に潜み、明石掃部守を待ち伏せていた、という。
奥方と百合姫も、敗戦の報を聞くとすぐに城を出て竹山城にもどったが、再び保木城にもどる破目になった。
夜明け前、捨丸は再び裏山に登り、どこかに入り込むスキがあるのではないかと、薄明の霧に浮かぶ城を見回した。
昨夜のうちに、老人から保木城のあらましの構造を聞いたので、城郭の最北に位置する本丸の裏門から城に入り込み、目星をつけた郭を虱潰しに当たるつもりだった。
しかし、玄蕃は何かを察したのか、昨夜とは打って変わり、大手門はもちろん、裏門も大勢の将兵が厳しく見張っていた。
これでは、城に近寄ることすら難しい。
日が昇ると、三々五々と集まってきた大工たちが、大手門前の火除け地で、木を削り鉋をかけて何やら作り出した。
半刻ほどすると、それは白木の角材となり、さらに半刻経つと、それは大きな十字架であることが判った。
捨丸の脳裏を、ある疑念がよぎった。
その疑念に憑りつかれた捨丸は、恐怖に打ち震えた。
歩く足もおぼつかない捨丸は、ようやく城下の隠居老人の屋敷に辿り着いた。
「・・・捨丸どの、大変じゃ」
捨丸の蒼ざめた顔を見るなり、ひと晩にして目が窪み憔悴した長兵衛が、ようやく口を開いた。
「辻々にお触れが出された。三日のうちに、保木のすべてのキリシタン教徒は名乗り出て、その場で棄教せよ、と。さもなくば、百合姫を十字架に架けて処刑する、と・・・」
『池田軍を引き入れるというおのれの浅はかな思いつきが、姫を死に追いやった!』
捨丸は、おのれを激しく責めた。
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