慶長2年2月因幡(その2)
気が付くと、東の空高く日が昇っていた。
『ここはどこだ?』
皆目見当がつかない。
とりあえず、天道を背にして捨丸はずんずんと歩いた。
遠くの山脈の中腹に大きな石垣が、かすかに見えた。
『ここは、大きなお城の城下町だろう』
と、捨丸は思った。
しもた屋が雑然と立ち並ぶ街並みの中を、闇雲に歩き回っていると、遠くで掛け声がした。
声のする方へ行ってみると、果たして剣術の道場があった。
どうやら朝稽古をしているようだ。
武者窓から覗くと、若い侍たちが声をそろえて打ち込み稽古をしているのが見えた。
しばらく眺めていたが、いずれの若い侍も木刀の振りが鈍く、盆踊りをしているようにしか見えない。
それで、思わず声を出して笑ってしまった。
それを聞き咎めたのか、稽古を止めた若者たちが、表にばらばらと駆け出して来た。
「小僧。何がおかしい!」
詰め寄って胸倉をつかもうとする手を払った捨丸が、
「下手くそだから笑って何が悪い!」
と叫ぶと、若侍たちは笑い出した。
「何を言うか、まだ子供ではないか」
「子供なものか。これでも当理流の達人じゃ」
「剣の達人が、腰に剣も差してもおらんではないか」
「ならば戦うか」
「よかろう。中で打ち据えてやる!」
首根っ子をつまむようにして、若侍たちは捨丸を道場へ連れ込んだ。
「田中、軽く揉んでやれ」
と押し出されたのは、居並ぶ門人たちでいちばん年若の侍だ。
それでも、捨丸よりかなり年長だ。
木刀を握った捨丸が、
「拙者が勝ったら、朝飯を喰わせてくれ」
と真剣な顔で言ったので、道場の者はどっと笑った。
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