慶長5年2月京(その2)
「言わせておけば、・・・盆踊りじゃとお。成敗してくれる。若造、剣を取れ!」
血気に逸る若い門人が、無三四の鼻先に木刀を突きつけた。
「それでは、果し合いということでよろしいかな?」
「もちろんじゃ」
相手が頷くのを見た無三四は、
「拙者、作州竹山城家老新免無二斎嫡男、無三四。父より当理流の手ほどきを受けた者にござる。ここで討たれて死ぬとも、異存はござらん」
と、低頭してから型通りの口上を述べた。
「吉岡憲法の一番弟子、矢頭蒼次郎」
若い門弟が、無三四が壁に掛かった木刀を掴むや、
「作州の山猿め!」
と叫ぶなり、上段からいきなり打ち込んできた。
半歩かわして胴を払うと、矢頭は前のめりに倒れ、床に突っ伏した。
「江藤左馬之助」
大柄な二人目は、
「おりゃ」
「おりゃ」
三間も先に腰を落として構えたが、どうにも掛け声だけは勇ましいが、攻める気配ががない。
無造作に下段に構えた無三四が、ずかずかと間合いを詰めると、気圧されたのか江藤は後退し、羽目板に背を突き当てた。
後のなくなった江頭は、羽目板を反動にして、無三四の喉元目がけて、乾坤一擲の突きを入れた。
これも半歩かわして下から跳ね上げると、木刀は飛び去り、天井に当たって落ちた。
すかさず袈裟に打ち下ろすと、江藤某はのけ反って倒れた。
肩の骨でも折れたのか、唸り声を発するだけで、立ち上がる気配もない。
「奥野良助」
と、名乗った三人目は怖気ついたのか、やはり三間ほど離れて木刀の先をくるくる回すだけだ。
ならばと、一気に飛び込んだ無三四が喉を突くと、奥野は羽目板に叩きつけられ、口から血を噴き出し、ずるずると床に落ちた。
残った門人たちは、あまりの無三四の強さに恐れをなし、
「ま、まいった」
と、一同そろって床に這いつくばった。
「吉岡憲法先生に、一手ご指南いただきたい」
門弟たちに血に染まった木刀を突きつけると、
「大先生は、他流とは戦わぬ。ご勘弁を」
ただただ額を床にこすりつけるのみだ。
「それでは、勝手に」
と無三四は、目星を付けて道場の裏手の母屋へ向かった。
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