慶長5年10月岡山(その8) 

その夜、捨丸が寝入ったころ、座敷の襖が音もなく開いた。

気配で薄目を開けた捨丸は、漂う微かな香りで、それが百合姫と知った。

百合姫は、帯を解き、捨丸の傍らに横になった。

ふたりは見つめ合い、どちらともなく顔を寄せ、唇を重ねた。

半身を起して前をはだけた姫は、乳房を持ち上げて捨丸に与えた。

幼子のように乳房に顔を埋める捨丸を、百合姫は掻き抱いた。

捨丸も、初めての房事のように、ただ姫を強く抱きしめるだけだった。

やがて、逸る気持ちを抑えられなくなった捨丸は、いきなり姫の裾を広げて太腿を露にして、のしかかった。

捨丸を押しのけようとする姫を、捨丸は無理に押さえつけた。

持ち上げた太腿を二つに割ろうとすると、姫はせり上がって逃れようとする。

狙いをつけた奥津城に、捨丸が、やっとおのれの分身を挿し入れると、

「うっ」

と呻いた姫のからだから、急に力が抜けた。

さらに広げた太腿に腰を押しつけ、奥津城のさらに奥深く、分身を隙間なく埋め込んでいった。

姫は下から、捨丸は上から腕を伸ばし、何があろうとも決して離れまいと、ふたりは唇を重ねてひしと抱き合った。

さらにひとつに結びつこうと焦った捨丸は、姫の奥の奥へ突き進んだ。

捨丸の若い激情を、姫は優しく受け入れた。

ふたりの平仄が合ったとき、こらえきれなくなった捨丸は、姫の最も深いところに、精を放った。

「ああ、沁みる」

のけ反った姫は、喜びの声を挙げた。

嵐に難破した船のように、捨丸はしばらく姫の胸の中で揺蕩っていた。

「そなたに、何かを与えることができたでしょうか?」

抱いた捨丸のほつれた髪をかき上げながら、姫はたずねた。

「この上ない幸せを、いただきました」

捨丸は、姫を強く抱いた。

輿入れした初夜に長春を拒絶したあとも、夜のお伽を撥ねつけたので、男女のことは何も知らない、と姫は告白した。

百合姫にとって、初めての男がじぶんだったのか!

捨丸は喜びに震えた。

翌朝、高松城下を目指す捨丸を、百合姫は玄関先で見送った。

「クルスはお持ちですね」

と、姫がたずねた。

捨丸が胸のクルスを示すと、

「それは、そのまま差し上げましょう」

姫は、微笑みながら言った。

「姫さまの大事なものではないのですか?」

と答えると、

「大事なものだから、そなたにあげるのです」

と、やや陰りのある微笑みを、唇に浮かべた。

その陰りが気になった捨丸だが、思い当たることは何もなかった。



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