慶長5年10月美作(その7)
捨丸と長兵衛は、騎馬を駆って浮田軍を追い、和気まで一気に駆けた。
和気から山陽道に入るつもりだったが、浮田軍のしんがりの槍の影が間近に見えたのに驚き、あわてて馬を下り、見えつ隠れつあとを追った。
やがて、浮田隊は、そのまま直進して岡山へ向かう本隊と、右へ折れて保木へ向かう分隊との二手に分かれた。
ここまで来て野営するはずもないので、この動きは不可解だった。
本隊をやり過ごし、吉井川の川べりを保木へ向かう分隊のあとを追った。
この辺に詳しいという長兵衛の案内で、細い山道を迂回し、松明を掲げた先頭の騎馬武者を眼下に見ながら、先を急いだ。
保木城を取り囲む丘陵を降りて木立に隠れ、大手門の前に集結する隊列を盗み見た。
その数五百ほどか。
騎馬武者が持つ松明に照らし出された玄蕃の赤鬼のような髭面が、暗闇に浮かび上がった。
玄蕃のすぐ後ろの二頭の馬に、白装束の奥方と百合姫の姿が見えた。
「今宵は、こちらの保木城でお休みいただき、大殿との会見に備えなされ」
薄気味悪い玄蕃の猫撫で声が、低く聞こえた。
「大殿とは誰のことか?」
百合姫の凛とした声が、暗闇の中で響いた。
「むろん、わが主君、浮田左京亮さまにございます」
「はて、面妖な。ここまで来れば、岡山城はつい目と鼻の先。遅くなっても今夜のうちに城に入ればよいではないか」
奥方が、異を唱えた。
その時、目の前の大手門が開いた。
玄蕃は何も答えず、ふたりの馬の手綱を曳き、大手門を潜った。
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