慶長2年2月但馬(その9)

その夜遅く、離れの雨戸が音もなく開き、忍び入るものがあった。

気配を感じて薄目を開けると、少女がにじり寄り帯を解いた。

驚く捨丸の横に滑り入った少女は、白い顔を寄せて口を吸い、その手は捨丸の脇腹から下腹へとやさしく這い入った。

そそり立った逸物をさらに指先と掌で弄ってから、少女はやおら捨丸の上に乗り、蜜であふれる窪みに当てがった。

腰を押しつけて小刻みに震える少女は、「クク」と小鳩のように可愛い声で鳴いた。

ある昼下がり、玄蕃は武具をつけた野武士たちを二つの班に分けて戦わせた。

ひとつの班は穂先を襤褸布で被った長い槍を構え、もう一方の班は木刀で対峙した。

捨丸と東作は、玄蕃の横でこの二組の戦いを見た。

しかし、戦いはあっけなく終わった。

槍組が穂先を揃えて突き立てると、木刀組はなすすべなく石垣まで後退し、その場にへたり込んだ。

それを二度も三度も繰り返したが、結果は同じだった。

それを見ていた玄蕃は怒った。

「何の工夫もない奴らだ」

と言うなり、捨丸に木刀を持たせ、みずから槍を取った。

捨丸は東作の木刀を借り、二刀の木刀を下段に構えた。

玄蕃の槍の穂先は、鋭い殺気を放っていた。

「きえーっ」

玄蕃が、気合もろとも槍を突き入れた。

腰を落とした捨丸は、二本の木刀を交差させ、槍を一気に跳ね上げた。

槍は拾丸の頭髪をかすめて飛んでいった。

捨丸が、玄蕃のがら空きの胴を払った。

膝を突いた玄蕃は、脇腹を押さえてうずくまり、

「見事・・・」

と言いかけたが、そのままことばを呑み込んだ。

・・・髭面を真っ赤に染めたのは、子供に負けた悔しさからか痛みからか、それは分からない。

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