慶長2年1月但馬(その5)

むさぼるように芋粥を食べる捨丸に、

「どこから来た」

と、たずねた男は、

「有子山からじゃ」

捨丸の返事を聞くと、たいそう驚いた。

「有子山?子供がどうして有子山から」

「秋山小兵衛と果し合いに出かけた帰りじゃ」

「お前がか?」

男は、馬のように大きな歯を見せて笑った。

「兄者だ」

「はて、兄者とは何者か」

「弁やん。・・・弁之助じゃ」

「弁之助?ははあ、作州の麒麟児と称される宮本村の弁之助か」

「知っとるのけ?」

「父親は無二斎だろう。だが、弁之助に弟がいるとは知らなかった」

髭面を近寄せた男は、

「美形じゃな」

と捨丸をまじまじと見た。

「して、秋山小兵衛との戦いはどうじゃった」

「秋山と門弟二人を討ち果たしたは!」

「・・・おお、あの秋山小兵衛に勝ったとな」

男は腕組みして、しきりに感心していたが、

「その弁之助の弟がどうしてここにいる?」

と睨みつけた。

「騎馬武者が峠で襲ってきた。逃げようとして崖から落ちた」

男は、

「ふ~ん」

と言いながら、今度は捨丸のからだを舐めるように見やり、

「いくつだ?」

とたずねた。

「十三ばい」

それを聞くと、男は再び捨丸を縛り上げて土間に転がし、奥へ消えた。

四半刻ほどすると、老婆が土間に降り立ち、焦げるほど顔に手燭を近寄せ、捨丸を見やった。

老婆の顔を見返した捨丸は、思わずぞっとした。

・・・左の額から左目と鼻筋にかけて、恐ろしい刀傷が走っていた。

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