慶長2年1月但馬(その4)

目を開けると、あたりは真っ暗だった。

頭が痛む。

街道で有子山城からの追手の槍をかわしているうちに、崖から転げ落ちたところまでは覚えていた。

折から昇って来た月の明かりを頼りに、捨丸はさらに斜面を下った。

しばらくすると、行く手をさえぎる小川の細い流れが足を濡らした。

流れに沿って歩いた先に、大きな百姓家が月影の中に浮かび上がっていた。

戸口から漏れる灯りに向かって一歩足を踏み出したところで、羽交い絞めにされた捨丸は縛り上げられ、追い立てられて百姓家の土間に放り込まれた。

百姓家の囲炉裏では、大きな鉄鍋がぐつぐつ煮え、土間いっぱいに芋粥の匂いが漂っていた。

しばらくして、奥から髭面の大男が現れた。

百姓の野良着のような粗末な着物姿だが、いかつい髭面の奥の眼光が鋭い。

捨丸を一瞥しただけで、大男は囲炉裏の円ござに座った。

それを待っていたのか、土間の奥の台所から老婆が現れ、持ってきた酒徳利を炉端に置き、鍋から山ほどの芋粥をどんぶりにすくった。

髭の男は徳利の酒をちびちび呑み、芋粥のお代わりを三度もした。

食べ終えると、捨丸に向かい、

「小僧、食べるか」

と、初めて話しかけた。

捨丸がうなずくと、男は土間に降りて捨丸の縄をほどいた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る