慶長5年9月関ケ原(その4)
戦さ上手の明石掃部守は、福島正則軍に鉄砲を撃ちかけ、槍隊を繰り出し、仕上げにとばかりに騎馬隊で蹂躙し、逆襲した。
たまらず総崩れとなった福島軍は、退却するしかなかった。
それを見ていた井伊直政、加藤嘉明、筒井定次らが、戦線が伸び切った明石軍の横腹に痛撃を加えた。
敵に分断されのを恐れた掃部守は軍をまとめ、いったん本陣のある天満山へ退いた。
関ケ原を圧していた重い霧が、晴れた。
それで、戦場を俯瞰することができた。
東西軍それぞれが全面に展開し、各所で死闘を繰り広げていた。
今や、形勢は五分と五分か。
しかし、徳川家康が本陣を敷く桃配山の後背の南宮山には、毛利秀元、吉川広家、長束正家などが、右翼の松尾山城には金吾中納言・小早川秀秋などの、西軍の残余の大軍が控えていた。
その時、西軍左翼の石田三成が陣取る笹尾山から狼煙が上がった。
掃部守は、この狼煙が、南宮山の毛利軍と、松尾山の小早川軍への総攻撃の合図であることを知っていた。
掃部守は、宇喜多全軍に総攻撃の支度を命じた。
背後の毛利軍と右翼の小早川軍が動き出すのに合わせて、正面の宇喜多軍も総攻撃に転じ、東軍を一気に殲滅する・・・。
「見よ。西軍の勝ちじゃ」
馬上の掃部守が、槍の先で東の方を指さした。
その槍の先に、桃配山の本陣を出た徳川軍が金扇の大馬印を押し立て前進して来るのが見えた。
徳川軍は、土煙と硝煙がもうもうと立ちこめる合戦場まで、五六町ほどの至近に平然と陣を敷いた。
「家康め、血迷ったか!」
鉄砲頭の河内友清が叫んだ。
「友清。いや、そうではない。五分の戦いをする東軍将兵を督戦するため、総大将みずから合戦場まで降りてきたのだ。敵ながら天晴れではないか」
掃部守は、敵の総大将を褒めそやした。
「ようし、首を取ってやれ!」
主が敵将を褒めるのが不服なのか、友清は馬の腹にひと蹴り入れると猛然と天満山を下った。
友清の家来たちも、あわてて槍や鉄砲を担いで駆け出した。
それを見た捨丸は、兄の長春の騎馬を奪うや、いきなり馬を駆って友清主従のあとを追った。
土塁を出たところで、うなりをあげる砲弾が、捨丸の頭上をかすめて飛来し、東軍の赤い武具の軍団の真っただ中で炸裂した。
砲弾は、「ひゅう、ひゅう」と指笛のような音をたて、次から次へと飛んで来た。
目の前で、足軽の首が、腕が、足が、千切れて跳ね上がる。
直撃を受けた武将の鎧が砕け、肉塊が舞い散る。
・・・左翼の笹尾山の石田三成の陣地の五門の大砲が、いっせいに火を噴いたのだ。
先を走る友清目がけて、槍を突き入れた者がいた。
かわした槍を抱えるや、友清は馬上から敵に飛びついた。
敵を組み敷き、脇差で喉を突こうとするとき、一頭の騎馬が駆けつけ、槍で友清の背を刺し貫いた。
その武将に、槍で立ち向かおうとした捨丸の目の前で、砲弾が炸裂した。
・・・吹き飛ばされた捨丸は、一瞬にして光を失い、地べたに転がった。
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