第13話「勝利と裏切り さよならごんぎつね」

『次はオレが撃つ』

『なんとしても仕留めろ!』


 揺れながら走る戦車から射撃してもなかなか命中しないことは分かっていたが、三台はぬかるんだ道を走りながら、逃げるアーチャー自走砲をかわるがわる撃った。

 距離がジリジリ詰まってゆく。近くなるほど命中率も上がるのだ。因縁のキツネを最初に仕留めるのは自分だ……とモジカワ装甲雑技団の三人は、地の果てまでも追う意気込みでそれぞれの戦車を駆る。

 逃げるアーチャー自走砲も真後ろに何度も砲撃していたが、そうそう命中する筈がない。彼等はそう、タカを括っていたが……

 だしぬけに一台のエムテン戦車が被弾し、雨の中で突然炎を噴き上げた。


『うわ、ヤラレた!』

『「フォックスGON ナツメグ」M一八ヘルキャット、「モジカワ装甲雑技団 ドアクマン」M一〇型戦車を撃破しました!』


 撃破されてスピードの落ちたエムテン戦車は、見る見るうちにカーチェイスから脱落し、後方へと流れ去ってゆく。

 手下の一人が機械音声のジャッジを聞いてハッとなった。『くそ、仇はとるぞ! 怯むなフビンスキー!』と、いきり立つ仲間に慌てて声を掛ける。


『待て、ホッタッチョー! 今のジャッジ聞いたか? オレ達のなかに……』

『うるさい、後にしろ!』


 降りしきる雨の中で叫び声が交錯する。話なんぞ後で聞くとばかりに前方で逃げ続けているアーチャー自走砲へ照準を合わせようとした手下の一人ホッタッチョーは、照準鏡の端で味方のはずの戦車が砲口をこちらへ向けたのを見て目を丸くした。

 動画コメント欄も「おい、マジかよ」「待て待て、撃つ方向違うだろ!」と、ざわめく。

 そして、まさか味方を撃つのかと驚きの目で見つめるホッタッチョーの戦車は次の瞬間、直撃を喰らって撃破された。


『「フォックスGON ナツメグ」M一八ヘルキャット、「モジカワ装甲雑技団 ホッタッチョー」M一〇型戦車を撃破しました!』


 自分を誤射したのかと相手を凝視したホッタッチョーは、『……そういうことか!』と歯軋りした。

 車体の色も恰好もエムテンに似ているが、それは別の戦車だったのだ!

 M一八型戦車「ヘルキャット(性悪女)」。エムテンより更に防御力が薄く紙同然になった代わり、第二次世界大戦の戦車では群を抜く韋駄天の超速戦車である。

 なんのことはない。視界の悪い雨の中で、前を走る敵を無我夢中で追ううちにエムテン戦車によく似たこの性悪女がそっと紛れ込み、モジカワ装甲雑技団を次々血祭りにあげる……そんな作戦だったのだ。

 ホッタッチョーの目に、ヘルキャットの砲塔に描かれたキツネのエンブレムがまるで自分を嘲笑っているように見えた。


『きたねぇ真似を……』

「誉め言葉と受け取っておくわ」


 敵を欺くのは違反行為ではない。騙された恨み節に対するナツメグの応えは凛としていた。ホッタッチョーは何も言えなくなり、そのまま強制ログアウトさせられる。

 残り一人となった手下フビンスキーは、「こうなったら!」と、ナツメグの戦車に組み付くように激しく横からぶつけた。

 後ろから追ってきた文字川りるむのゼアーアイン重戦車へ呼びかける。


『姫、姫、私が抑えている間にコイツを仕留めて下さい!』

『そ、そんなこと突然言われても……』


 二台がくっついた恰好で、しかも距離が離れているので正確に狙いがつけられない。文字川りるむは躊躇したが『フビンスキー、ゴメンね! お前ごと撃破します。恨まないでね!』と宣告した。

 だが、『喜んで』と応じる前に、彼の戦車は前方を走る少年のアーチャー自走砲から「させるか!」と直撃を受け、敢え無く撃破されてしまった


『フビンスキ-、成仏しちゃった……おのれ!』


 文字川りるむの戦車が砲塔を向けるのを見て、少年は「ナツメグ離れろ、来るぞ!」と叫んだ。

 二人は走りながら左右に散開する。開いた空間を次の瞬間、ゼアーアインの砲弾が突き抜けていった。

 三人の手下を見事に倒したフォックスGONの狡猾な戦いぶりに、動画コメント欄からは「キツネめ、やりやがる!」「姫、負けるな!」と罵倒や声援が飛ぶ。


『お前ら、りるむの手下どもに、また勝手にご褒美あげたわね! 絶対絶対ゆるさないから!』

「許さないって、それはこっちの台詞だ!」


 言い返したナツメグが放った一弾はゼアーアインを掠め、鱗のような追加装甲をむしり取った。

 しかし、一方で彼女は「なんか妙だな……」と、違和感を感じた。

 元カレのヒビキがこの戦車と戦った時の冷酷さ。それを、この文字川りるむから感じないのである。我儘姫というキャラの人気Vtuberなので子供のように怒っているだけで、愛嬌さえ感じるほどだった。

 だが……


(ここはお前らの来る場所じゃない、失せろ!)


 あのとき、確かに、ゼアーアイン重戦車の容赦ない攻撃と冷ややかな宣告に、元カレのヒビキは心をへし折られたのだ。

 子供じみたこのVtuberがあんな台詞を吐くだろうか……ナツメグは首を傾げたが。


「ナツメグ、何をボーッとしてる。ヤラレるぞ!」

「う、うん」


 少年に叱咤され、ナツメグは我に返った。

 何はともあれ、今は目の前のバトルに集中しなければ!


「一対二になったけど油断するな。あのゼアーアインはこの『バトル・オブ・タンクス』最強の戦車だ」

「そ、そんなに強いの?」

「戦車砲は一二八ミリ。ぶっちゃけ貫けないものはこの世界にない。前面装甲は傾斜してる上に二〇センチ。側面でも一〇センチはある。真上か、後ろから、それも零距離で撃たない限り倒せない」

「それってほとんど無敵じゃん! その上こっちは一発でも喰らったら終わりなんでしょ? どんだけぇー!」


 戦慄しているところに追い打ちみたいな砲弾が飛んできた。確かにボーッとしてる場合じゃなかった。ナツメグは慌てて戦車を発進させる。


「だからあの作戦でいくしかない。ここが正念場だ」

「う、うん……」


 思わずゴクリと唾をのんだナツメグに、少年はふっと笑いかけた。


「大丈夫だ。ナツメグ、今までどれだけの敵と戦ってきた? 戦車がチートでも、それに胡坐をかいてふんぞり返っただけの奴なんか怖いもんか」

「そうだね……」

「『バトル・オブ・タンクス』最強の戦車は間違いなくアイツだろう。でも、『バトル・オブ・タンクス』最強のプレイヤーは……」

「ええ、私達……!」

「そう、僕たちフォックスGONだ! いくぞ!」

「おう!」


 少年の激にナツメグも応じ、彼女のヘルキャット戦車は弾かれるようにゼアーアインに向かって突進した。


「戦車の性能の違いが決闘を左右する決定的な差ではないということを教えてやる!」

『こらぁ! それは赤く塗った戦車でしか言っちゃいけないセリフだぞぉー!』


 少年の雄叫びに文字川りるむが思わずツッコむ。ゼロ距離で自分の背後を取られまいとゼアーアインは後退しながら車体の角度を変えつつ、砲口をヘルキャットに向けた。


「撃……」


 ゼアーアインが砲弾を放とうとした瞬間を狙って少年のアーチャー自走砲が火を噴き、命中した。

 砲弾はまた撥ね返されたが、被弾して揺れたせいでナツメグを狙った砲弾は大きく外れてしまった。その隙に突っ走るナツメグのヘルキャット戦車がゼアーアインの傍まで肉薄する。


「なんとか、コイツの背後を……!」

『ちぃぃぃッ!』


 ナツメグの方は、なんとかゼアーアインの唯一の弱点である真後ろへ取り付いて射撃したいが、下手に停止も出来ない。撃たれて当たったら一発で終わりである。ヘルキャットはゼアーアインの周囲をグルグル回りながら砲弾を何発も放つが、りるむは超信地旋回でゼアーアインを回転させ、背後を撃たれまいとする。そうしながらこちらも砲塔を回し、ヘルキャットを何とか捉えて撃とうとする。

 二台の戦車はくんずほぐれつ取っ組み合い、至近距離から砲弾を撃ちあう。なかなか決着がつかないので、自分の戦車をずっと旋回させている文字川りるむも、周囲をグルグル回っているナツメグも、互いに目が回ってクラクラ状態になっていた。

 と、云ってもゼアーアインは背後だけ取られないよう気をつければよかったが、ナツメグのヘルキャットはどこを撃たれてもおしまいである。

 だが、危なくなると少年のアーチャー自走砲がゼアーアインに砲弾を当て、正確な射撃を妨げてくれた。

 雷雨の中で激しくぶつかり合うその様は、戦車というよりまるで鋼鉄で出来た怪獣が取っ組み合い、互いに相手の弱点へ牙を立てようとしているようだった。

 動画視聴者達も、思わずコメントを入れるのを忘れてハラハラ見守っている。

 そして……先に音を上げたのは、文字川りるむの方だった。


『こ、このままじゃラチが明かない……』


 ヘロヘロになってしまったりるむは「目が……目が回る……吐きそう」と、つぶやきながらその場を離れ、近くの森へと逃げ出した。

 単に逃げたのではなく、森の中なら木々がジャマになるので周囲をチョコマカしているヘルキャット戦車も動きにくくなるだろうと踏んでのことだった。動きさえ封じれば、紙装甲の戦車など容易に撃破出来る。

 一方のナツメグもフラフラしながら「ま、待て……」と後を追う。また距離を開けられて戦うことになったらフォックスGONに勝ち目はない。なんとしても逃がすわけにはいかなかった。


『さぁ、仕切り直しよフォックスGON! ここなら木がジャマで動き回れないでしょ。ふふふ、これでお前も年貢の納めどき……って、あれ?』


 森の中へいったん逃げ込んだゼアーアインは体勢を立て直したが、そこで文字川りるむは自分がトンでもない失策を犯してたことに気がつき、「しまった!」と叫んだ。

 何故なら……


『木がジャマで大砲が動かせない!』


 ゼアーアインの戦車砲の砲身は七メートル近くある。砲塔を回そうとすると木に砲身がやたらとつっかえて動かせない! りるむはそうと気がつかず自ら死地に飛び込んでしまったようなものだった。

 慌てて森から脱出しようとしたゼアーアインの真後ろに、遅れて乗り込んだナツメグのヘルキャット戦車がピタリとつけた。


『駄目! りるむはお姫様だから撃ったら駄目! お前に撃つ資格なんかないんだから!』

「半年前、レギュレーション違反の戦車でプレイしていた私の彼氏へ似たようなこと言って殺したわね。『ここはお前らの来る場所じゃない、失せろ!』って。あのとき戦車に同乗してた私は、今日までずっと『バトル・オブ・タンクス』をやり続けてきたの。こうして仇を取る為に!」

『ちょ、ちょっと待って! りるむ、そんなの知らない! 確かに戦後戦車でプレイしてた奴をさんざん痛い目に遭わせたし、笑ったりもしたけど逃げられたもん。そんなこと言ってない!』

「この期に及んで見苦しい言い訳しないでよ! ヒビキの仇だ、くだばれ!」

『本当だから! 待っ……』


 砲声と共にゼアーアインの真後ろにあるエンジンルームをヘルキャットの砲弾が貫いた。黒煙を上げ、砲身が項垂れたように下を向く。


「やった……やったよ! とうとうヒビキの仇を取ったぁぁ!」

『「フォックスGON ナツメグ」M一八ヘルキャット、「モジカワ装甲雑技団 文字川りるむ」ゼアーアイン重戦車を撃破しました!』


 激しい雨音が拍手のように耳を打つ。無感情なジャッジの機械音声さえナツメグの耳には勝利を祝福しているように聞こえた。

 しかも画面には「捕獲可能」の表示がついていた。世界最強の戦車が自分の愛車に出来る! ナツメグは夢かとばかりに迷わず捕獲を選択し、乗り換えた。


「ナツメグ、とうとう仇をとったな。おめでとう……」

「アキト、ありがとう……背後から援護射撃してくれなかったら私、きっとやられてたよ!」

「いいんだ」


 歓喜極まったナツメグとは対照的に、少年の声は沈んでいた。

 何故なら……


「今まで本当にありがとう。そして、さよなら……」

「え?」


 次の瞬間、ナツメグには信じられないことが起きた。

 轟音と共にナツメグが撃ち込んだ場所と同じところへ少年の戦車から砲弾が命中し、炸裂したのだ。


『「フォックスGON」アーチャー自走砲、「フォックスGON ナツメグ」ゼアーアイン重戦車を同士討ちで撃破しました!』


 機械判定は「フレンドリーファイア」、つまり同士討ちと表示したが明らかに「誤射」ではなかった。

 フラッギング、とも呼ばれる「故意の騙まし討ち」。味方への裏切り行為である。

 何故撃たれたのか、ナツメグには理解出来なかった。


「アキト……どうして……」



**  **  **  **  **  **



 ぼう然とするナツメグに向かって、少年は静かに語り始めた。

 プレイヤーは撃破されると僅かな間を置いて強制的にログアウトさせられるのだが、同士討ちのフレンドリーファイアの場合は撃った側が無効か有効かを選択出来るらしく、少年がどちらかを選択するまで話が出来るようだった。


「正直に言う。僕はこの戦車を取り返すまでの間、君を利用するつもりだった。君に仇討ちの助けを頼まれた時からずっと……」

「そんな……」

「僕には取り戻したい恋人がいるってナツメグに話してたよね。それがこのゼアーアインなんだ」

『正確には私なんです』


 突然、鈴を転がすような可憐な声が割って入った。

 驚愕するナツメグの目の前で少年の所有となったゼアーアインからゲーム画面に「戦術AI、起動」と表示され、銀の髪、虹色の瞳をした美少女が現われて微笑みかけた。


「誰、あなた……」

『はじめまして。私、ゼアーアインの戦術AI『ベルベット・メル』と申します』

「この重戦車ゼアーアインは、あるイベントの優勝賞品として『バトル・オブ・タンクス』の運営が造った一台きりのワンオフ重戦車なんだ」

「……」

「そして僕は優勝して、この戦車でずっとプレイしていたんだ」

「ち、ちょっと待って!」


 ナツメグは思わず叫んだ。

 このゼアーアインをずっと駆って戦っていたプレイヤーということは……


(ここはお前らの来る場所じゃない、失せろ!)


 そう言えば、あの時聞いた声もどこか彼と似ていたような……

 それでもナツメグには信じられない思いだった。


「じゃあ……じゃあまさか、あのとき私の彼氏だったヒビキの戦車を撃破して『失せろ』って吐き捨てたのは……!」


 少年は無言だったが、見えないはずの画面の向こう側でうなずいたのをナツメグはハッキリと感じた。


「どうして……」

「僕には、何もないから」


 ナツメグへ静かに語りかける少年の声は切実で、そして寂しげだった。


「僕には友達がいなかった。小学校の時からずっと。陰気で人と話すのが下手な僕はいつもスケープゴートにされてきた。話しかけても引かれて笑われるばかりで、人の輪の中にいつも僕だけが入れてもらえなかった」


(ありがとう。会いたいなんて言われたの……生まれて初めてかも)


「友達のいない僕の居場所はこのゲームだけだった。だけど大勢の友達でプレイするチームや、カップルでプレイするチーム、自分の優位を見せつけるプレイヤーを見かけるたび悔しかった」


(どうしてお前らばかり! お前らばかり……ちくしょう! ちくしょう!)


「僕には手に入らないものをこのゲームの世界でも見せつけられてるみたいで許せなかった。イジメ紛いのプレイをしてる奴も」


(僕はそういう奴を見かけると、無性に同じ目に遭わせたくて仕方がないんだ)


 今まで見かけた少年の不可思議な振る舞いや、激しい憎悪、さびしそうな様子のひとつひとつが、ナツメグの中で思い出される。


「そんな時だった。このゼアーアインのAI『ベルベット・メル』が僕に話しかけてくれた。『私は貴方に必要な存在になれませんか?』。タンクバトルの戦い方をサポートするだけの擬人化されたAIが。誰かに自分が必要とされ、求められることがこんなに嬉しいなんて……人格の生まれたメルは、それからはもうただのAIじゃなくなった。そして僕とメルは……」


 ようやくにして、ナツメグは今までの何もかもが腑に落ちた。この少年の孤独と憎悪を知って……


「そんな時にゼアーアインをアイツらに奪われてしまった。無敵の戦車でこのサーバーに君臨する様子を動画で自慢したかったVtuber文字川りるむとモジカワ装甲雑技団に。奮戦したけど僕は一人だった。ソロプレイの弱点を突かれて、どうしようもなかった」

「……」

「何としてもアイツらからゼアーアインとメルを取り戻さねば……そんなふうに必死に一人で戦ってる時に出逢ったのがナツメグ、君だった」

「アキト……」

「君が探す仇が僕だと知って、このことをずっと隠したまま君を利用していた。今さら許してくれなんて白々しいことは言えない。でも……」


 少年の声は潤んでいた。

 言い訳でも謝罪でもなく、罪悪感に苛まれながらも思っていたことを、そしてまっすぐに告げた――


「嬉しかった。最初は使い捨ての駒みたいに利用するつもりだったけど、君がどんな窮地でも一生懸命プレイしている姿にいつの間にか見惚れていた。君が僕を思って本気で叱ってくれた時や会いたいと言ってくれた時、どんなに嬉しかったか……現実に恋人が出来たみたいで、本当にそうなれたらって思ってしまった。そんな君が探してる仇が実は僕だって、今までとうとう言えなかった」

「アキト……」

「僕はメルと共にずっとここで生きてゆく。ここでしか彼女に会えないから。でも君は恋人の受けた屈辱だってこうやって見事に晴らした。任務完了だよ。君は『バトル・オブ・タンクス』から、もう出ていくんだ」

「そんな……」

「君の雪辱を話したら恋人だって戻って来るだろう。現実の世界に何もない僕と違って、友達も恋人もいるじゃないか。大切にするんだ。このゲームのことなんてもう忘れて。ぼ、僕のことも……」


 本当は忘れないでいて欲しいと言いたかったに違いない。震える語尾が、それを物語っていた。それでも、未練など残さぬよう自分の意思を必死に押し殺して……


「優しい君が好きだった。いつまでも変わらないでいて……さよなら」

「アキト! アキト待って! 私……」


 ナツメグは必死に呼びかけたが、そこでゲーム画面はプツンと切れた。

 『貴方は味方によって撃破されました』

 表示されたゲーム結果を前に、ナツメグはへなへなとPCの前にくず折れた。


 モジカワ装甲雑技団との決戦と勝利から一転、裏切りと告白と……そして少年が自分と恋人になれたらと同じように思っていたことも。


 嵐のようにいろんなことがいっぺんにありすぎて、ナツメグの頭の中は完全に真っ白になってしまった。


(私……)

(私は……)


 応えるものは誰もいない。

 放心したナツメグの瞳は、「バトル・オブ・タンクス」の待機画面をいつまでも虚ろに映し続けていた……

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