第9話「急襲!モジカワ装甲雑技団」

『「フォックスGON」コメット巡航戦車、「ハヤトはヤン坊」グレイハウンド装甲車を撃破しました!』


 その装甲車は「猟犬」という愛称とは裏腹に、ネズミみたいにちょこまか逃げ回っていたがついに捕捉されてしまった。

 命中弾を浴び、グレイハウンド装甲車は気持ちいいぐらい木っ端微塵に吹き飛ぶ。


『くっそー、ヤラレたか! キツネのお二方、御手合せありがとうございました。視聴者の皆さん、どうか僕を慰めて下さい……うっうっうっ』


 悪戯少年風の容貌こそしていたが、実況していたVtuberは礼儀正しかった。ナツメグと少年は「こちらこそありがと」「お疲れ様」と応える。

 しかし、フェイドアウト寸前に「戦う前にキツネうどんといなり寿司でゲン担ぎしたんだけどなぁ……」というボヤきが聞こえたので二人は思わず吹き出してしまった。


「いや、それで勝てたら苦労しないって!」

「でも面白いVTuberだったね、アキト。あの人、ライブ配信始める時に『僕、閃いたんですよ! キツネの天敵、猟犬グレイハウンドなら勝てるって』って。私、思わず笑っちゃった」

「あんな愉快な人なら、負けても嫌な気なんかしないだろうな」

「あ、私もそう思った」


 少年は名残惜しそうに「友達になりたかったな……」と、つぶやいた。


「ところでナツメグ、『フォックスGON』の戦果がこれで八〇台になったよ!」

「わ、マジ!?」


 少年も「我ながら凄いな」と嬉しそうだった。

 といっても別に「バトル・オブ・タンクス」運営から特段、認定や称号が贈られる訳でもない。自分達で戦績を噛みしめて喜ぶだけである。

 ナツメグはちょっと躊躇ったが、思い切って「ね、今度戦勝会をやらない?」と言った。


「戦勝会?」

「よかったらオフで会って乾杯しようよ。私は高校生だからジュースになるけど」

「僕も高校生だからジュースだけど……」


 少年は残念そうに「でもそれはNGなんだ」と断った。


「リ、リアルで会うのはイヤだった? ゴメン……」

「そういう意味じゃないんだ。『バトル・オブ・タンクス』で個人情報とかをやり取りするのはレギュレーション違反になるんだ」

「ええっ! そうなの?」

「うん。ペナルティーで最悪の場合、BANされる。オンラインゲームでも散々うさん臭い勧誘とかナンパとか蔓延ってたから、今はどこのゲームでもこの手の規制は厳しいんだよ」

「……」


 知らなかったとはいえ、ナツメグはがっかりした。

 気まずい沈黙が流れたが、少年はポツリと「ゴメンね。でも嬉しかった」とつぶやいた。


「ありがとう。会いたいなんて言われたの……生まれて初めてかも」

「アキトったら大げさだよ」

「本当だよ」


 見えない画面の向こうで少年が淋しそうに笑ったのをナツメグは敏感に感じ取った。


「ホント? 私、アキトって友達が大勢いてモテてるってイメージだった」

「イケメンのイメージを自分で壊して残念だけど、モテないし友達もいない。一人もいない。典型的な陰キャのぼっちだよ」

「……」


 少年は孤独な身のうちを告げた。会いたいと言われたことが嬉しく、心安立てに明かしたくなったのだ。

 ナツメグはますますバツが悪くなったが、そこでふと「あれ?」と我に返った。


(い、今「モテない」って言ったよね!)

(じゃあアキトの「恋人」って……?)


 モテないのに存在する恋人。それはもしやイマジナリーフレンド、いわゆる「脳内彼女」ではないだろうか。

 だったら……

 ナツメグの心臓が凄い勢いでバックンバックン言い出した。


(ま、待て待て、落ちつけ私! 「だったら」ってなによ「だったら」って! なにもないって!)

(私の彼氏はヒビキなんだから! 仇を討ってヨリを戻すために「バトル・オブ・タンクス」を始めたんでしょ? アキトにもそう話したじゃないの!)

(だ、だけど……)


「あ、ゴメンゴメン。友達がいないっていうのは嘘だな。僕、ナツメグのことを友達って思ってるから。本当だよ」


 ナツメグが黙っていたので気を悪くしたと思ったらしい。少年は苦笑しながら謝った。そのまま「じゃあ、次は一〇〇台目をフォックスGONの目標に……」と話が変わろうとしている。ナツメグは慌てて「ま、待って!」と引き留めた。


「?」

「アキト、モテないんだよね! だったらあのさ、わ、わ、私……」


 自分が何を言おうとしているのか自分でも分かっていない。だが、このまま話が流れたらそうそう機会は巡ってこない気がする。だからといって、一体全体何をどうしてなんとやら。


(言え! 今しかないんだ、もう言っちまえ!)

(待ってって! だから何を言えっていうのよ!)


 脳内で二人のナツメグが激しく言い争っている。本体と云えば、お目目がグルグル状態の絶賛混乱中。ゲーム画面越しからそんなナツメグの状態など判るはずもない少年は「どうかしたの?」と訝しげ。


「ナツメグが僕を友達だなんて思ってないなら……」

「そうじゃない、逆、逆! あっ、アキト! あの、わっ、わたしとつ……」


 そのとき、虚空をつんざいて飛んできた砲弾が「しゃんとしろ!」と言わんばかりに、絶賛混乱中だったナツメグの戦車に命中した。


「ふぎゃっ!」


 幸い、当たった角度が浅かったせいで砲塔を小突かれただけだった。弾かれた砲弾はそのままあさっての方向へと飛んでゆく。


「いたたた。今のは一体……」

「ナツメグ、敵だ! 一体どこから……」

「はぁい、ここでーす」


 トボけた返事が返って来た。

 キッとなったナツメグが振り返ると、荒野の遥か彼方に三台の戦車が並んでいる。

 驚くべきことに、ゆうに二キロメートル以上も距離が開いている。そこから命中させたのだ。狙撃手も真っ青という腕前だった。


『ぱおーん! 全国百万のザマァプレイ視聴者の皆さん、お待たせしました。象さんズ、ついに噂のキツネを捉えしましたぞぅ!』

『フォックスハンターのみんな、ゴメンね! 今日、象さんがキツネ初狩りしちゃうぞぅ』

『おっし、我ら三人で姫にキツネの襟巻きを作って捧げるといたしますか!』


 トークからして、どうやら彼等もゲーム実況をライブ配信しているVtuberらしい。

 ただ、先ほど戦ったVtuberプレイヤーと違って声の調子にどこかしら嘲笑や悪意を孕んでいた。


「なぁにが『キツネの襟巻き』よ。勝手なこと言ってくれちゃって!」


 頭に来たナツメグが吐き捨てた横で、少年は「まさかアイツら……」と、驚愕した様子だった。


「ナツメグ。レティクル(望遠鏡の照準器)を起動して、アイツらをよく見てごらん」

「へ、どうしたの? 一体……」


 明らかに声の調子が変わっている。少年の声は激しい憎しみを抑えた、冷ややかなそれだった。

 首を傾げながら言われるまま、ナツメグはゲーム画面のモードを切り替えて、彼方に陣取った敵を眺める。


「なに、あの象みたいな奴。アイツが撃ってきたの?」

「ナツメグ、スーパーカーのポルシェとかフォルクスワーゲンは知ってるかな?」

「うん、ポルシェなら知ってる」

「あれを作ったのはその、ポルシェ博士ってマッドサイエンティストでね。その彼が作った電気仕掛けの象さんだ。ドイツの重駆逐戦車『エレファント』!」


 いかにも「ドイツ人が作りました感」のある鹿爪らしい車体の後部に、鉄箱にしか見えない砲塔を背負い、そこから六メートルに及ぶ長大な砲身が伸びている。

 どこからどう見ても「象を戦車にしたらこうなった」としか言いようのない容姿だった。


「うん、どう見てもあれは象だわ。象~さん象~さん、お鼻が長いのね♪」

「ナツメグ、歌ってる場合じゃないよ。あと大事なのはそこじゃない。車体のエンブレムを見てみな」

「……ん? あれは!」


 車体に描かれていたのは「撥ね踊る小悪魔の少女」だった。さっきまでノンキに歌っていたナツメグは転瞬息を呑み、真剣な顔へと変わる。

 何故なら、それは見覚えのあるエンブレムだったのだ!


(チート戦車でレギュレーション違反しといて逃げんのかよ、クソダサ!)

(ザコの分際で戦後戦車なんて乗ってんじゃねーよ、バーカ!)

(ねぇどんな気分? 彼女の前でブザマにやられてどんな気分? アッハハハハ!)


 身体中の血液が瞬時に沸騰するような思いだった。

 忘れるはずなどない。

 あの日罵倒と嘲笑をさんざん浴びせ、彼氏の心をへし折った四台の戦車……


「モジカワ装甲雑技団!」

「奴ら、とうとう出てきたな」


 少年の声もさすがに興奮を隠せなかった。


「おおかた噂のナマイキなキツネ退治で投げ銭稼ぎに腰を上げたんだろう」

「アイツらだ……あのときヒビキをザコ呼ばわりして笑ったアイツらだ……!」


 目指す仇の片割れと遭遇し、ナツメグは怒りに身を震わせる。 

 一方の少年は冷静な眼でもう一度、三台の戦車を観察した。


(一台足りない。僕の目的……あの女がいない)

(でも彼女の性格からしてどこかに身を潜めてるなんてあり得ない)

(おそらく今回は手下任せで自分は参加せず、ご隠居気分で眺めているんだろう)


 少年は素早く頭を巡らせる。

 ナツメグはまだ知らないが、「モジカワ装甲雑技団」は「バトル・オブ・タンクス」プレイヤーチームの中でも屈指の実力と人気を誇っていた。

 彼等は嘲笑と軽蔑でいっぱいの実況中継でフォックスGONを叩き潰し、己の実力を誇示して名声を高め、視聴者達と盛り上がるつもりなのだろう。


(だったらそれを逆手に取って、奴等に赤っ恥をかかせてやる)

(そうすれば顔に泥を塗られたあの小悪魔め、黙ってなどいられまい)


「アキト、どう戦う?」


 喰いつき気味に呼びかけたナツメグへ、「ナツメグ、落ち着きなよ」と呼びかけた少年の声は笑いを含んでいた。


「頭に血が上ってたら照準だって狂っちゃうぞ。クールダウンだ、クールダウン」

「だって……!」

「ナツメグ、アイツらに彼氏がバカにされて悔しかったんだろ? だったら同じように悔しがらせてやろう」


 少年の声は、相手を陥れてあざ笑おうとする悪魔の毒を密かにはらんでいた。


「アイツらにはボスがいる。でも、あそこには今いない。だからあの三台をコテンパンにして引きずり出してやるんだ」

「うん……」


 悪意に満ちた声はそこでふっと途切れた。

 そして、最初に出会ったときと同じように「大丈夫、どんな相手でも勝ちようはある」と告げた。ナツメグはドキッとなって彼の戦車を見る。

 自らをルサンティマンと呼ぶこの少年に、誰かを憎む歪んだ心と人を思いやる優しい心、相反するものが同居していることをナツメグは感じ取った。


「モジカワ装甲雑技団はおそらくエレファントで『敵を圧倒するところ』を見せつけたいんだろう」

「ってことはアレ、そんなに強いの?」


 答えの代わりに少年はじっくり狙って戦車から砲弾を放った。それは長距離を飛び、一台の前面に見事に命中してナツメグを驚かせた。戦車を駆る少年のテクニックが高いと知っているつもりだったがこれほどとは! 驚くべき射撃の腕前だった。

 だが、命中したはずの砲弾はガィン! という耳障りな金属音と共にエンドウ豆のように弾かれてしまった。


「見ての通り象さんの皮膚は分厚い。前面で二〇センチもあるんだ。撃って当ててもご覧の通り。そして象さんの牙も鋭くてあの長い砲で貫けない装甲はない。さっきの砲弾も実は正直当たり所が悪かったからナツメグは助かった。運がよかったね」

「ひ、ひぇぇぇ! それじゃアイツ無敵じゃん!」


 あんなのにどうやって勝てるの! とナツメグの顔に思わず絶望の色が浮かんだが、少年は「……ま、普通はそう思うだろ?」と余裕たっぷり。ちゃんと勝算があるらしい。


「そう思って『あの女』は、わざわざ象さんを指定したんだろう。あれで生意気なキツネを潰せってさ。だが生憎だったな」


 少年の顔に薄ら笑いが浮かんだ。


「そんな象さんだからこその弱点があるんだよ……」



**  **  **  **  **  **



『おや? 二匹のキツネが互いに距離を取りましたね。どうするんでしょうか……』

『一台が囮になって、もう一台を逃がすつもりかな? まぁこっちは三台もいるから逃げてもしょせん無駄だけど』


 モジカワ装甲雑技団のゲーム動画ライブ配信はフォックスGONの動きをつぶさに実況していた。信者のような視聴者達もワクワクして戦況の展開を期待している。

 雑技団の編成はお揃いのエレファント自走砲が三台。至近距離まで迫られて撃たれてたところで、まずやられる心配はない。キツネをノンビリと追い、仕留めるだけの狩りになるだろうと彼等はタカを括っている。

 だが……


「戦車前へ!」

「ナツメグ、いきまーす!」


 掛け声と共にナツメグのコメット巡航戦車と少年のパンター中戦車が左右に別れて走り出した。大砲を高く掲げ、砲弾を撃つ。それは地上に着弾すると白い煙を次々に吐き出した。発煙弾である。

 そして、二台の戦車は自ら作ったその白い靄の中へ飛び込み。そこから新たな発煙弾を発射する。


『なんだ、アイツら煙幕に紛れてこっちに近づくつもりか?』

『まぁ、こっちに来るまで二キロはある。その間に撃破出来るさ』

『零距離で撃たれてもこっちゃあ、ビクともしないんだけどね』


 「アイツら、何か作戦があるんじゃないか?」と、視聴者から訝しむコメントもついたがモジカワ装甲雑技団の三人は誰も意にも介さなかった。

 ナツメグと少年の戦車はジグザグに動きながらひたむきに突っ走る。互いの距離は二キロから一キロに、そして五〇〇メートルにと次第に狭まりつつあった。

 煙幕の切れ目から姿を見せる時を狙って鋼鉄の巨象も火を噴いたが、さすがに正確に照準がつけられないのでほとんど無駄弾にしかならない。


『何発目に命中するかなぁ?』

『キツネども、いいことを教えてやる。確率は収束するんだぜ。いつかは当たるってことだ』


 余裕の三人はゲラゲラ笑いながら砲撃を続ける。

 一方のナツメグ達は撃ち返しもせず、ただひたすらに歯を食いしばって戦車を走らせた。一発の砲弾がナツメグの戦車をあやうく掠める。



「アキト!」

「大丈夫だ。僕を信じて」


 思わず声を上げたナツメグを少年が励ます。信じて、という言葉に思わず心臓が高鳴ったのをナツメグは感じた。

 ついに距離は三〇〇メートルを切った。

 さすがにそろそろ真剣に仕留めるか……と、思った彼等に向かって白煙の中から初めて砲火が閃いた。

 それは、釣鐘を鳴らす撞木のようにエレファント自走砲の車体を揺らし、煙幕から飛び出した二匹のキツネを狙わせなかった。

 そして、煙幕から飛び出した二台の戦車は驚くべきことにどちらも砲塔を回して大砲を真後ろに向けていた!


『……!?』


 思わず目を剥いた彼等に向かってナツメグと少年はエンジンも灼けよとばかりにオーバーブーストのラストダッシュを掛ける。どちらも最高速は五〇キロ。戦車としては速い部類に入る。

 そして……二人は三台の間を見事にすり抜けたのだった。

 そこで初めてキツネの意図を知った一人が「しまった!」と叫んだ。


『ドアクマン! ホッタッチョー! 超信地旋回で後ろを向け! コイツらは……』

「もう遅い!」


 急停止した二台の戦車は、あらかじめ後ろ向きにしていた大砲でエレファント自走砲の後尾にある背面ハッチ、薬莢の排出口を素早く狙った。

 ここはこの戦車のいわば唯一のウィークポイントだったが、まさか背後など取られまいと三人は油断しきっていたのだ。


『ちょ、お前ら待っ……』

「いっせ~の!」

「せっ!」


 零距離なので弾の外しようなどなかった。声を合わせたナツメグと少年の一斉射撃で二台のエレファントが爆炎を噴き上げ、砲身が力なくうなだれた。


『「フォックスGON」コメット巡航戦車、「モジカワ装甲雑技団 ドアクマン」エレファント自走砲を撃破しました!』

『「フォックスGON」パンター中戦車、「モジカワ装甲雑技団 ホッタッチョー」エレファント自走砲を撃破しました!』


 機械音声が冷徹にジャッジを告げる。

 残った一台は『くそ! コイツら……』と、必死に車体を転回させようとした。

 ところがどうしたことか、少年はそれに対して何のリアクションも起こさない。


「超信地旋回。ナツメグ、最初に戦車の動かし方を教えたとき僕が言ったこと、覚えてるかい?」

「あ……」


 思い出したナツメグが声を上げるのと同時に、目の前でエレファント自走砲のキャタピラが引きちぎれた。少年が冷ややかな声で解説する。


「左右のキャタピラを互いに逆方向に動かして回転させるってことは車輪やキャタピラに相当無理をさせるってことだ。ましてや六五トンの重い巨体で急にそんなことなどさせようものなら覿面こうなる。砲塔が固定されて回転しないエレファント自走砲の、もう一つの弱点だ」

『ルサンティマン、貴様……』

「いつも人を見下してザマァなプレイしてばっかりのお前らが視聴者の前でトンだ晒しものになっちまったな。いっそ改名しろよ、『ドジカワ装甲雑技団』」

『……てめぇ』

「あの小悪魔に伝えとけ。身の程をわきまえろ、お前如き小娘じゃ相手にならねえってな!」


 砲声とともに横っ腹を晒して擱座した鋼鉄の巨象はあっけなく撃破された。


『「フォックスGON」パンター中戦車、「モジカワ装甲雑技団 フビンスキー」エレファント自走砲を撃破しました!』


 機械音声のジャッジが無感動にごんぎつねの勝利を宣告した。


『おのれ、覚えてろフォックスGON! この借りは必ず……』

「返させねえよ。一生借りっぱなしで悔しがってろ、バーカ!」


 三台の巨象がフェイドアウトして消える。ナツメグは、頬を紅潮させ「やった………やったぁぁぁ!」と躍り上がってガッツポーズをしたが、少年はポツりとつぶやいた。


「ごめん……」

「え、どうしたの? 突然」

「前にナツメグ、僕に言ってくれただろ? 何もせずに黙ってる方がカッコいいって。そうしたかったけど、我慢出来なかった……」

「いいよ! そんなの……」


 ナツメグは嬉しかった。我慢出来なかったのはきっと自分の悔しさを、彼が自分のことのように感じてくれたから……そう思ったのだ。


 だが、そうではなかった。


 つぶやくような少年の言葉は次の瞬間、ナツメグの胸にグサリと突き刺さったのだった。


「アイツらなんだ。僕の恋人を奪ったのは……」

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