第18話 勧誘①

「こ、ここがうちの村、です!」


 声を振り絞ってアーサーにそう言ったのはマナカである。

 彼女が村の住人だということで、森から村までの道案内を進んで名乗り出たのだった。


 ちなみにマナカの緊張ぐあいが面白くて、ニコは微笑ましく眺めている。


「ここがイサール村か~」


 ただ今アーサーの周りにいるのは護衛のモルドーだけではなく、10人ほどの騎士団も付いてきていた。

 アーサーとモルドーは立派な馬に乗っており、後ろの騎士団は徒歩だ。なんでもここに来るまで訓練と称して走らされていたらしい。なので全員が疲労困憊の顔をしていて、はたして護衛の任務を果たせるのだろうかという疑問がニコの頭の中に浮かんでいた。


(まああれだけ強いなら本当は護衛もいらないのだろうけど)


 そのアーサーは初めて訪れる村に感動をしながら、マナカをあちこちに連れて見て回っていた。


「アーサー様、一度村長に顔を見せませぬと」

「ああ、そうだったそうだった」


 その無垢なはしゃぎっぷりに苦言を呈したのはオルドーだ。頭を抱えていて、いつも奔放な王に悩まされているのだなと直感的にニコは思う。


 そしてそのままマナカが自宅へ。マナカの父親のヤックがこの村の村長だ。


 アーサーたちに続いてニコも同席する。申し出たわけではないが、オルドーが気前よく同席を許してくれたのだ。


「あ、あなた様は……⁉」

「やあやあ、どうもどうも」


 ヤックはアーサーの姿を見た瞬間に彼が本人だと気が付いたらしく、すぐさま頭を下げてその場にひざまずいた。


「ああ、いいよいいよ。そんな堅苦しいことはやめてくれ」

「いえ、そんなわけには……」

「大丈夫大丈夫。視察? しに来ただけだから~」


 そう言うが、ヤックとしてもただの村長の身分で一国の王とフランクに話すわけにもいかないので、譲歩して口調だけでも崩さず丁寧にするようにした。


 アーサーもヤックの前にドカッと座って家の中を見回している。


「どうだい、この村の調子は」

「ええ、以前はとてもひっ迫しておりまして、正直に申し上げてしまえば死を覚悟しておりました」


 そんなアーサーに対し、ヤックははっきりとそう言った。包み隠さず、ありのままのあった状態を話す。


「土も枯れ、魔物に悩まされ、狩りで死人が出て。日々、その一日を生きるのに精一杯でした」

「そっか……」


 そう言うと、アーサーは先ほどまでの軽薄そうな顔はどこへ行ったのか、沈痛な表情を浮かべる。

 村人の苦しみを想像していたのだろう。


「先の戦争以来、うちの村はずっとそんな感じでしたから……殿下が悩むようなことでは……」

「いや、その戦争の火種を作ったのは俺だ」


 そう区切ると、アーサーは剣を腰から外してヤックを相手に――頭を下げた。


「殿下⁉」

「すまぬ、俺のせいでお前たちこの村に迷惑をかけた」

「お顔を上げてください。殿下に頭を下げられたら、私たちもどうしたらいいかわかりませなんだ……」


 だがアーサーは顔を上げる様子はなく、そして付き人のオルドーもその様子を黙って見ていた。


 そこでヤックは「それに」といって話を変えた。


「もう今はかなり生活が改善しました。突如村に現れた、英雄によって」


 そこでヤックがニコの方に目配せをした。それを察したのか、ようやくアーサーも顔を上げてニコの方を見る。


「ニコが来てからあっという間に村は元の姿を取り戻しつつあります。子供が生まれたところもありますし、以前のような暮らしはもうしておりません」

「この子が、この村を変えたと?」


 そしてやはりアーサーがニコのことを品定めするように見る。


「ただの子供にしか見えんが……」

「ニコにはゾンビを操る力があるようでして」

「ああ、それは最初に見た。間違って切ってしまったが」


 アーサーの認識としても、ゾンビというのは弱い魔物だ。

 そんな魔物を使えたところで、村が変わるほどの力を持つとは思えない。


 だが、とヤックは続きの説明をニコにするように言った。


「……僕のゾンビは、魔石を食べることでどうやら強くなるようです」

「魔石で?」


 突然ニコが喋りだしたことを特に咎めることもなく、アーサーは詳しい説明を求めた。


「はい。なので森にいるゴブリンやワイルドボアの魔石を食べさせたところ、ゆるやかですが成長しました。だから、森にいる魔物ならどれも簡単に倒すことができます」

「面白いな」


 興味深そうな反応を見せたのはアーサー。


 ニコとしては、以前にゾンビの存在を知られて国を追い出された経緯があるから少しばかり緊張をしていたが、どうやら即死刑ということはなさそうだということで少し安心をした。

 オルドーもまだ懐疑的な目をしているが、ゾンビに対する嫌悪感などは見られない。ただの魔物だという見方らしい。


「数は俺が倒したものがすべてか?」

「はい。今は100体ほど出せます」

「今は?」

「それもゾンビの成長に応じて増えていくようです」

「そういうものなのか」

「どうやら」

「ふむ……」


 顎につまんで考えるアーサー。


 そして考えた末に、一度話を戻すことにしたらしい。


「それでヤック。村の調子はどうなんだ?」

「はい、今は柵を作って防備を固めているところです。そのあと田畑にも柵を設置して、余裕があれば畑の拡張をしようかと」

「なるほど。食料は、今現在はそのニコが取ってくる魔物で食いつないでるのか?」

「はい。ただもうすぐ稲が実りますので、それでまた3か月はもつかと」

「わかった」


 それだけを聞くと、アーサーはニコの方をじっと見た。


 そして言い放った。


「ニコ。お前、うちの国で兵士として働かないか?」



―――――――――――――――――――



ようやくタイトル回収、ですかね?

……まだ気が早いか。







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王国に流れ着いた「ゾンビ使い」は、最強の軍勢を築く 横糸圭 @ke1yokoito

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