第3話
僕と静佳のデートから数日が過ぎ、僕はいつも通りバイトをしたり大学に行ったりという日々を送っている。あの日のことはこれから一生忘れられない、そんな気がするのだ。しかし、そんな運命的な思いを感じながらも僕はいまだに何も行動に移せてはいない。悲しいくらい、いつも通りの日々を過ごしていたのだ。
「高橋よ、悩みがあるなら聞いてやるぞ」
店長は時々かなり鋭い、勘が働くというか突拍子のないタイミングで的確に心情をついてくるところがある。僕は静佳とのデートからかなり静佳のことを異性として意識している、一方で静佳は依然と全く変わらない態度で僕と接しており、何だかモヤモヤした気持ちになっている。だが、そんなこと言えるわけはない。
「実は、進路のことで悩んでいて…」
「進路?」
「学校卒業してからどうしようかなって、特にこれといってやりたい仕事もないし、何かに夢中になれるものもないし」
「そうか、ならうちで働けば?やりたいこと見つかるまでの間でいいぞ」
「えぇ!?」
確かにこのバイトはかなり板についてきたという自負があるし、正直就活をするのはかなりストレスに感じていたから渡りに船とはこのことだ。でも、本当に店長の厚意に甘えてしまっていいのだろうか?と考えていたのだが…
「冗談に決まってんだろ、自分の仕事は自分で見つけなさい。それより、静佳のことだろう?悩んでんだろ?」
「なっ…」
「デートはどうだったんだ?」
僕の言葉に被せるように店長が詰め寄ってくる。
「なんで知ってるんですか!?」
「静佳から聞いた。高橋よ、女の子は大切にしなきゃいけないぞ」
「いやいや、そんな何もしてませんよ」
「まぁそうだろな、お前にそんな度胸があるとは到底思えない」
なんだかちょっと腹が立つもの言いだった。大体、なんで静佳はそんな風に店長に言ってしまうのだ?まてよ、デートと静佳は言ってたのか…
「静佳は難しい子だ、そしてお前は恋愛についてはからっきしだ」
そんなことはわかっている…つもりだ。
「だけど、俺はお前のことを応援したい気持ちでいっぱいなんだ」
「はぁ?」
この人はなかなかどうして、話の流れが急に変わるからわかんない人だ。
「なんていうかなー、こういう青春って感じがたまらないんだよ!」
「そうですか…」
「俺はもちろん二人に上手くいってもらいたい!が、上手くいかなかったときに辞められても困るんだよね~」
店長の大人の本音が漏れている。結局、僕と店長はこんな内容の薄い会話を仕事しながら続けていた。店長は冗談めかしてくれているが、恋愛は甘いものじゃないということを伝えてくれている…ような気がする。
翌日、僕は大学で友人と昼食をとっていた。
「知ってる?」
「なにを?」
「先輩から聞いたんだけど、あそこの美大のサークルって結構ヤバいみたいだよ」
―静佳の通っている大学だ。
「ヤバいってどういうこと?」
「あくまで噂なんだけどさ、変な薬とか勧められたり、飲み会とかも怪しい雰囲気なんだってよ」
「そうなんだ…」
静佳に限ってそんなことはないと思うが、周りがそんな環境なのは心配だ。とは言ってもあくまで噂なのだが…
その日の午後、バイト先で久しぶりに静佳に会った。何日も会ってない訳でもないのに、妙に懐かしくとても魅力的に見える。静佳ってこんなに可愛かったっけ…?
「先輩、久しぶり!元気してた?」
「うんまぁ…」
「相変わらずつれないねぇ、そんな顔しているとお客さんに逃げられるって、先輩!」
静佳は変わらず接してくれている、変わらない態度がこの日の僕には少し寂しく感じ、なぜかは分からないがイライラした気持ちになってくる。どうしていつも通りにできているのか?僕はどうしていつも通りに接することができないのか?やがてその気持ちは態度に出ていってしまう。
この時の自分の気持ちに素直になっていれば、今が変わっていたのかもしれない。しかし、僕は足が竦んだように動けなかった。静佳のことが怖いのか、自分が傷つくのが怖いのか、どうして怖いのかもわからないまま立ち止まっていた。
君と重ねるモノローグ @maruco07428
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