Recollection 03

 死んでない。心を失っているだけ。

 ――だから生きている。まだ生きている。


 その一心で、彼女にアンドロイド化の手術を施した。失った心の代わりに、インターネット直結型アシスタントプログラムを挿入した。分かりやすく言えばsiriみたいなものだ。

 彼女の人格と呼べるものは、すべてインターネットを漂う情報のツギハギだ。だから空っぽの存在と呼ぶに相応しいけれど、それではあまりにも虚しいので「そら」と名付けた。


 人間と機械の中間みたいな存在に彼女は成り果ててしまった。


 それでも死んでない。心を失っているだけ。

 ――だから生きている。まだ生きている。


 臓器や血液なんかは腐りやすいので、最初の手術の時すべて捨てた。また、肉体の劣化も激しいために、どんどんサイバネティクス手術をほどこす必要があった。そのため、新鮮な死体が定期的に必要になった。だから、死体ブローカーである住職の存在はありがたかった。


 またひとつ手術を重ねるたびに、君の肉体はどんどん失われていく。

 時間が経つにつれ、どんどん君が君でなくなっていく。

 テセウスの船みたいだ、と思った。

 一体いつまでが君で、どこまでが君なのか。

 その答えはとても簡単で、心を無くしている時点でとっくに君ではないのだろう。

 人は心に依る。

 心のない人間は、アンドロイドと同じものに視える。

 思える。


 だから僕は、心の在り処を知りたいのだ。

 人は心に依るのなら、君の心さえ見つかれば。

 君はどれだけ君を失おうと、君なのだ。


 それが証明できるなら、どんな外道だろうと歩き続けると決めたのだ。

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