4. Repair

 結局、三時間しか寝れなかった。

 住職ハゲの馬鹿が、ガトリング砲を乱射して玄関を破壊したせいだ。

「おーい! 助けてくれ! 腕の付け根がイテェんだ! きのう除夜の鐘を一万六千発撃っただけなのに! 後生だからなんとかしておくれー!」

 僕はすかさず飛び起きて、階段を三段飛ばしで駆け下りた。玄関では住職は痛みに悶え、ガトリング砲の銃身をガンガンと床に叩きつけているところだった。

「やめろ僕の家を壊すなハゲ野郎! 調子に乗って乱射するからそうなるんだ、人口神経が馴染む前に一万六千発もブッ放す馬鹿がいるか! だから除夜の鐘は百八回で我慢しとけって言ったんだ! 自業自得だバカ!」

「そう言うなよセンセイ! ああっ! 痛む! このままでは君の家をハチの巣にしてしまいそうだ!」

「この生臭坊主ハゲが……」

 そういうわけで、元旦にも関わず営業を開始する羽目になった。僕は住職を診察室に引きずって連れ込むと(僕の自宅は二階が住居、一階が診療所になっている)、さっそくベットに転がして、腕に局所麻酔を打ち、ガトリング砲に成り果てた右腕にメスを刺す。

「イダァァァァ!!! ちょっとセンセイ、これ本当に麻酔効いてるのかい!?」

「うるせぇ!! 闇医者に丁寧な治療を期待するな、このバカ!!」

 僕は追加でメスを四本、腕の付け根に突き刺した。流石の住職もこれには断末魔を上げて、痛みのあまり気を失ってしまった。

「手間かけさせやがって。こちとら徹夜明けで眠いんだから、最初から静かにしてくれよ……」

 愚痴をこぼしながら住職の腕を解体すると、まぁ酷い有様だった。人口神経はほとんどオーバーヒートして擦り切れ、付近の筋線維まで焼け焦げている。

「ひ、酷い……一体何をどうしたらこうなるんだ……」

 よくもまぁ「痛い」で済んでたなと感心しつつ、僕は住職のガトリング砲を一旦取り外し、人口神経を総入れ替えする作業に取り掛かった。ついでに、焼け焦げた筋肉の一部も、人口筋肉に交換してやる。有り合せの劣悪な素材をツギハギしたものだが、一か月程度は誤魔化せるだろう。また痛みを訴えてきたら、適当に交換して治療費をふんだくってやればいい。

 気が付けばすっかり日が暮れていて、診療所の窓からは西日が差していた。どうやらすっかり一日仕事になってしまったらしい。

「起きろ、ハゲ起きろ、治ったぞハゲ」

 住職の指先に数回メスを突き刺すと、勢いよく飛び起きた。

「痛っダァァァァァァァァァァァァァ!? 痛いよセンセイ! もうちょっと優しい起こし方はないのかい!?」

やかましいぞロクデナシ。ちゃんと治してやっただけありがたく思え」

「おお! 本当だ! もうすっかり痛みが引いたよ! 流石はセンセイだ!」

「……これに懲りたらしばらく安静にするんだな」

「そんな殺生な! 今夜は隣町のカワイイねーちゃんたちと一緒にゴロツキ狩りする予定だったのに……」

「坊主が殺生もクソもあるか! いいからたまには大人しく寝てろ!」

 どいつもこいつも好き勝手に生きる世紀末とはいえ、コイツだけは度を越している気がする。一体全体、どこの世界に片腕がガトリング砲の住職がいるのだ。考えるだけで頭が痛くなってくる。……さっさと請求書を押し付けて帰らせよう。

「ほら、請求書だ。オーバーホールに全交換だから高く付いたぞ」

「ゼロの数が二つほど多……いえなんでもありませんメスはもうしまってくださいお願いします」

 住職は請求書を折りたたみながら、大仰にため息を吐く。


「分かったよ……三十人分の死体を明日には納めておくから……」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る