ローカル・ルール

はやとちリミックス

ローカル・ルール

 僕は嫌な夢を見ていた。

 僕は公園のベンチに寝転がっていた。起き上がって辺りを見回すと、公園の周りは超高層建築物で囲まれていた。どうやら公園はオフィス街の真ん中にあるみたいだった。

 僕はまだ眠たかったので、再びベンチに寝転がった。うとうとしながら月を眺めていると、まるで有名なSF映画に登場する戦闘機のような物が空から降りてきた。

 戦闘機のような物は公園の近くに着陸しそうだった。僕はすっかり目が覚めてしまい、公園を出てそれを見に行くことにした。それが着陸したのは駅前のバス・ターミナルで、僕がそこに着いた頃には既に大勢の見物人たちが集まっていた。

 やがて戦闘機のような物から人間が出てきた。彼は「やった! やった! やったよ!」と大きな声で叫びながら、僕たちの間を擦り抜けてオフィス街へ走り去っていった。

 僕は自分のいる星がケーサツ星であることを不意に理解した。そして、戦闘機のような物に乗っていたのは、ドロボー星から来たドロボー星人であるということもわかった。

「ああ、またかよ……。誰か撃ち落とせよなあ」と僕の隣で戦闘機のような物を見物していた男性が呟いた。

「すみません」と僕は彼に声を掛けた。「『また』って、どういうことですか?」

「『どういうことですか?』って、どういうことだよ」と彼は言った。「ああ、ルールを知らないのか?」

「ルール?」

「あんた、田舎者か? まあ、田舎の若者たちはテレビを見ないし、新聞も読まないから仕方がないか。ドロボー星人がケーサツ星に来ることができたら、ケーサツ星人になれるんだ」

「それじゃあ、ケーサツ星人がドロボー星へ行くことができたら、ドロボー星人になれるんですか?」

「ケーサツ星人はどこへ行ってもケーサツ星人だ」と彼は言った。「そもそも、ケーサツ星人で自分からドロボー星へ行く奴なんていない」

「でも、そういうルールだとケーサツ星人は増えて、ドロボー星人は減ってしまうんじゃあないんですか?」

「ドロボー星人は減らない。よくわからないけど、最近なぜか増えているんだ」

「ははは、おもしろいですね」と僕は笑いながら言った。「ケーサツ星人も増えているし、ドロボー星人も増えているんですか?」

「ケーサツ星人は増えなくてもいいんだ! だから俺たちはケーサツ星に来るドロボー星人の宇宙船を撃ち落とさなきゃあいけないんだ!」と彼は怒鳴った。「俺は今からドロボー星人の宇宙船を撃ち落としに行く。その前に俺の戦闘機を見せてやるから、あんたも一緒に来い」

 僕は「面倒だなあ」と思いながら、男性と一緒に駅の近くにあるコイン・パーキングへ行った。彼の戦闘機は他の自動車と同様に、綺麗に並んで止めてあった。僕が予想していた通り、それは有名なSF映画の主人公たちが乗る、翼が可変するものにそっくりだった。

「いいか? いつでも、どこでも、俺たちは死ぬまでケーサツ星人なんだ。元ドロボー星人も、一度ケーサツ星人になったら死ぬまでケーサツ星人だ」と男性は言った。「本当のところは演技をしているんだ。ケーサツ星人も元ドロボー星人も……とにかく、俺たちはケーサツ星人の演技をしなくちゃあいけないんだ。死ぬまで演技をし続けるんだ」

 僕には男性が説明してくれたルールがいまひとつよくわからなかった。そして、まるで自分に言い聞かせるように、何度も「演技をするんだ」と呟きながら自動精算機へ硬貨を投入する彼を見て、僕は「嫌だなあ」と思った。

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