梅雨に入ったころから唐突に自殺願望を抱くようになった銀行員・詰草カアトは、通勤途中、衝動に突き上げられるまま自殺しようと決意する。しかし、いざ実行しようとしたそのとき、パンキッシュな衣装で身を包んだ男に止められた。男の名は玉砂利アナキ。その肩書きは、私立探偵――
キャッチーなオープニングでまず引っぱり込まれる本作、驚くのはその後にアナキさんが見せる謎解きの“論”なのですよ。ミステリー最大の魅力は謎解きのカタルシスにあるわけですが、その答を導き出す式がブレなくまっすぐしっかりと構築されていなければ、ただのトンデモに堕ちてしまいます。
そしてこの作品のテーマは“音”。それを正しく理論へ落とし込み、その上でドラマとして描き出し、ついには「なるほど!」な正解を示すに至る。本当にお見事です。
さらっと読めるのに読み足りなさを感じさせないエンタメミステリー、ぐいっとおすすめさせていただきます!
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)