乾闥婆の小鳥
庭園は緑の木々に満ち、枝という枝には花が咲き、
この楽園に、
娘は、
「
名を呼ばれると、
「デリヤさま、お帰りなさい」
蜜と雪の混じり合う香のように心地よく沁みとおる声は、ただ一言で
この娘こそがデリヤの生きる理由だった。
「ただいま。何か食べたか?」
「はい、果物を少し」
ふう、とデリヤが軽い溜め息をつくと、娘が身じろぎした。デリヤはそれに気付いて娘の隣に座る。
「ああ、ラハシャ、お前は何も悪くない。……砂漠に、サンティが来たのだよ」
硬直した娘を、デリヤは片腕で抱き寄せた。
「大丈夫だ。
「デリヤさま、私、ご迷惑を掛けているのでは」
「砂漠がこの城を守るのだから、俺は何もする必要がない。第一、お前を拾ったのは俺の意志だよ。気兼ねは要らぬ」
そんなことより、とデリヤは、娘を抱いたのと逆の腕を前方に伸ばし、手の先でぐるりと円を描くようにした。すると空中に揺らめく遠見窓が開き、青い空と白い砂漠、その彼方にほとんど黒いような緑の森が見える。
「見てごらん。来たのはサンティと従者だけではない。その後にまだ人がいる」
手前の四つの影がサンティの一行。その後ろに、確かに別の影がある。
「あれは小国の王子だ。善行で有名だというが……砂漠がどう応じるか見ものだ」
大きな
その性格は争いを好まぬ善き神だが、香りがそうであるように
その城に辿り着き、
この砂漠に真実など一つもないのだ。あの人間たちは、死ぬまでにその事に気付くかどうか。
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