カノジョ✕彼女

長月 音色

第1話 センパイ

朱色の陽が窓から差し込む夕暮れ時、教室で呆然と立ち尽くす私。

…たった今、告白されました。

バラをつきだされ、何とも大胆で情熱的な告白だったので不意にときめいてしまいました。

私の心を見据えるような鮮やかな瞳にキュッと綺麗なラインの鼻、艶々とした唇、書き上げた前髪、そして長い指で私の顎を上げた。

完璧過ぎる人で憧れてしまう程なのだが…

?「好きだ。『わたし』と付き合って欲しい。」

私「……ええーー!!?」

女性である私に告白をしてくれたのが、女性である『彼女』でした…


〜回想〜

まず、告白される前の当日の放課後。

その日はクラブ見学があり、私は友達の『雫』と一緒に色々見て回った。

中学生の頃は剣道部に所属していたが、高校入学前に声優になりたいと思い、この学校では放送部に入ろうと考えていたのだが、入学する年に廃部になってしまった。

演劇部はあるのだが、体を大きく使い、人前で身振り手振り表現する事が苦手な為、今迷っている最中である。

私「はぁ…運動部はちょっとね…(中学生の頃死にそうだったし!!)」

雫「あたしは決めたよ。」

私「えっ!?どこ!!?」

雫「弓道部」

私「へぇ〜!かっこい〜!!」

雫「えへへー私も見学して、同じ事思ったの。あんたマネージャーとかは?」

私「んーそれは嫌だなー」

雫「じゃあどの部も入んないの?もう、演劇部入っちゃえば?」

私「んんん……」

優柔不断な私を見て、呆れた顔をした雫が急に手を引っ張って…

雫「もうっ!行くわよ!え・ん・げ・き・ぶ!」

私「ちょっ、ちょっと〜」

そして連れてこられ…

先輩「おっ!新入生!演劇部に来てくれたんだ〜ありがと〜あれ?一人??」

ん?と思った私が当たりを見渡すと、雫の姿はなく、扉の向こうで「先いく」と口パクで言われた。

私「(裏切ったなぁー!)あ、あの私…」

先輩「んーじゃあ、体験の前に少しだけ芝居見てみる??」

その時、とても見たい!と思った。

私「はっはい!」

目をキラキラと光らせて、ワクワクしている様子を見た先輩が嬉しそうに

先輩「おお!そっかそっか!じゃあちょっと待っててね。」

そして、小さな舞台の裏へ消えていった。

10分ぐらい椅子に座って待っていると、ゆっくりと幕が開いた。

と同時に電気がどんどん消えていき、舞台に光が集められた。

彼氏役「初めまして、憎い憎い民衆達よ。我にどんな罰が下ろうと決して許しはせんぞ。無論、初対面のお前もだ。」

内容は、無実の罪を被され、世間から酷く罵声を浴びせられた挙句、無惨に殺されてしまった恋人の彼氏(?)役人が、復讐を始めるといったあるあるの物語だ。

私「わぁ…(この彼氏役の人…女性なのにカッコイイなぁ…)」

迫力ある演技に魅了された私はどんどん物語の世界へ惹かれていき、気づけばもう終盤に差し掛かっていた。

主人公役「もう、お前の人生はここでおしまいだ。…でも終わらせたくはない。どうか、復讐だなんて考え直してくれ!」

彼氏役「…ははっ。あははは!もう今更遅いんだよ……ありがとうウリエル。」

と淡い涙を流して礼を言い、彼は自らの剣で自殺してこの物語は幕を閉じたー…

舞台裏から先輩が来て下さって

先輩「どうだったー??私達の劇は…ってうわ!!」

私「うううぅ…なんていい話なの!ミカエルは悲しすぎる結末だし…」

ハンカチで涙を拭いながら、震える声で面白かったという感想を言った。

先輩「そんなに感動してくれるなんて嬉しい限りだよ!」

私「先輩方の演技が私は知識も何もないですが、とてもお上手で…胸に響いて…」

ぐすぐすとしていると、先輩が手を2回叩き

先輩「はい!じゃあ次は君の番!」

私「…はい??」

先輩「この台本を心を込めて、精一杯表現してみて。」

私「ええぇぇ!?そんなっ私っ下手で!それに声優志望で…」

ボソボソと言うと

先輩「え!声優??…だったら読むだけでいいよ!その代わり声でめいっぱい表現するんだよ」

私「いやでも…」

先輩「3.2.1スタート!」

私「(うぅ……でも、受験終わってから部屋で練習したし……よし!)」

彼氏役の子が舞台裏で私を覗きながら

彼氏役の女子「あちゃー先輩ったらまた強引な…(まぁ、演劇部に必要かどうかを判断できるかな…)」

先輩「(さて…どうかしら?)」

私「(脚本を読むな…あくまでこれはヒント…楽しめ…なりきれ…自分!)」

スっと息を吸い、

私「…ミカエル様。ずっと、ずっとわたくしは貴方様を愛しておりました。(清く、哀しく…そして、残酷に!)」

先輩「(おぉっ)」

彼氏役の女子「!!?(ははっ…演技派じゃん)」

私「それ故に……ふふふっ、あはははっ!!そう、わたくし直々に手を下したのです。あのネズミのような女を!!」

彼氏役の女子「……(やばい、吸い寄せられる。)」

私「あぁ、貴方様はこの世を恨んでも、わたくしを殺さずに自害なされたのですね…なんと悲惨な…それではわたくしもそちらへ向かいますね。ごくっ…ぐぁぁっ…ミ…カエ…ル様…」

そして、私の演技が終わったと同時に先輩方が拍手を送って下さった。

先輩A「良かったよ!すごいね!!」

先輩B「本当に初心者??劇団にいたとかじゃなくて?」

先輩「私達はあなたを待っているよ。急がなくていいから、したくなったらおいで。一緒に頑張ろうよ」

私「はっ、はい!ありがとうございます…(きっ緊張した〜!!…あれ??舞台裏のあの綺麗でカッコイイ人…こっちみてる??)」

そうすると、彼女が私の方へ一歩、また一歩と向かってきて

結弦「とても良かったよ。私は『一ノ瀬 結弦』。君の名前は?」

私「はい!私は『桐谷 未来』と言います。えっと、『一ノ瀬先輩』の演技もとてもかっこよかったです…」

ちらりと背の高い彼女を見上げた。

一ノ瀬「っっ…あっ、あ〜…あっありがとう」

私「私、演劇部入ってみようと思います!先輩『方』に憧れました^^*」

先輩「お!そりゃよかった!じゃあ待っているよ〜」

私「はいっ!」

一ノ瀬「…(先輩『方』か。)」

こうしてクラブの体験が終わり、素晴らしい演技を見て、私の演技も褒めて下さった事の余韻が残っていた為、とてもウキウキな気分だった。

そして、教室で一人、友達の雫を待っていると……

ガラッッ!

私「!!」

扉を開けた音がし、その方向へ目を向けるとそこには演劇部でお会いした、息を切らしている二年の一ノ瀬先輩がいた。

私「!?先輩!?(あ、スカート…やっぱり女子だよね!カッコイイなぁ…背が高くてスタイルも良いし…)」

少し疲れた様子の先輩は息を整えて、私の目をじっと見つめ、歩み寄ってきた。

私「??どうしたんですか??なにか…」

と口を開いていると、目の前にバサッと赤いバラの花が出てきた。

私「っ!…き、綺麗なバラですね…(どうしたんだろう、先輩…)」

そしてすぐに私の頬を彼女の掌が覆った。

びっくりしてそのまま目をキョトンと見開き、固まっていると、先輩の手がススーッと私の顎にまでおり、少し上に挙げて耳元で

先輩「好きだ。『未来』の声も全て…」

と囁き、私のファーストキスを奪った。

急な出来事に驚きの絶頂までいき、完全にフリーズしていた私は、しばらくしてようやく少しだけ状況を理解出来た。

私「…!?先輩っそれってー…」

一ノ瀬「あぁ、好きなんだ。『未来』の事が…一目惚れだ」

先輩の言葉はとても恥ずかしくて、顔が真っ赤に染め上がった。

私「でっでも…私達女…ですよね…?」

先輩はスタイルが良く、顔も整っており、仕草もイケメンだ。

けれども私達は女性だという、付き合う事を断る確かな理由にはならない偏見を私は持っていた。

一ノ瀬「だから??」

私「…へ??」

一ノ瀬「女だろうが男だろうが私は『未来』が好きなんだ。それに変わりはない」

私「!!」

なんて素敵な考えの持ち主なんだろう…と改めて先輩を尊敬し、憧れが増した。

一ノ瀬「…急だったからね。返事はいつでもいいよ。…それじゃあ、またね『未来』」

私「はっはい!ありがとうございます…(…びっ、びっくりしたぁ…さり気なく『未来』って何度も連呼してたし…カッコイイな…ってあぁ!どうしたらいいの!!?)」

また、ガラリと扉が開き、もう一度ガバッとその方向を見ると

雫「なになに!私がびっくりするじゃない〜お待たせ〜…どうしたの??」

そこには、部活動の説明の紙を持っている雫の姿があった。

私「それがね〜雫〜!……やっぱり何にもないの!」

雫「え??どうしたのよー」

と怪しそうにグイグイと近寄る雫。

私「えっと…あの、あ!そうそう演劇部入ることにしたの!」

雫「…えぇ!そうなの!良かった良かった!やっぱりあんたはそれがいいのよー」

私「そ、そうなの〜(相談…はしにくいな…)」

雫「で?まだ何かあるでしょ?」

じろりと見つめる彼女。

私「(うっ、さすが…するどい…)本当に何でもないよ。」

ニコリと微笑むと

雫「……あっそ!じゃあ帰ろ!」

私「うん!帰ろ帰ろ!(危ない危ない…)」

そして、私達は家路に急いだ。

雫「…(何でもない…ね……)」

これからが、私と先輩と…の物語の幕開けだったー…

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