最終話 これから
僕はマンションに着くとすぐにゲームのスイッチを入れた。
「年上じゃねーじゃねーか…男でもねーし…。」
そんなことをブツブツつぶやきながら、僕はヤツが入ってくるのを待った。
やたらムキになってつっかかってくるのもおかしいと思ったし、僕は自分の居場所を伝えたことはないはずなのにヤツは僕が東京にいることを前提に話しかけてきていた。
全て合点がいった。
夢…ベラベラしゃべりやがって…。
そんなことを考えていると彼、いや彼女が入ってきた。
〈どうも、今日はお仕事休みですか?〉
僕はあえてサバサバした感じであいさつした。
〈またお前か。こんな昼間からゲーム…大学は卒業できるのか?〉
相変わらずこちらの言うことは聞いていない。
〈僕のことはご心配なく。あなたは上手くやっていけてるんですか。僕と同い年にも関わらず僕よりはるかに苦労して、現実を突き付けられて…だからあえて先輩と呼ばせてもらいますよ、成也先輩。〉
彼女は素性がバレたことを悟ったのか、しばらく黙っていた。
続けて僕が話した。
〈今日で僕はこのゲームは卒業です。いつまでもここを心の拠り所にしてちゃダメだ。
あなたも…。
大学は誰でも立ち入ることが可能です。
夢から聞いてるんでしょ。
いつでも待ってますよ。それでは。〉
僕が別れのあいさつをしようとすると、成也は最後の声を(といっても文字だが)振り絞った。
〈晴…オレ、いやもういい…私、今は無理かもだけど…いつか…〉
成田華也子とはこんなやり取りで終わったと思う。
世間はすっかりゴールデンウィーク。
徹は野球部の後輩の指導。
啓人はロースクールに向けて勉強中。
夢は北海道旅行。
僕はというと、あのゲームをやらなくなったことぐらいで特に変わったことはない。
今でもバイトは続けてるし、将来の方向性が決まったわけでもない。
毎日満員電車に揺られてるかもしれない。
駅のホームで傘をスイングしてるかもしれない。
居酒屋で後輩にどうでもいい自慢をしてるかもしれない。
それでもいい。
周りからは代わり映えのないモブキャラに見えていたとしても、その人にとってはそれがメインストーリーで、自分が主役で、そこに正解、不正解なんてない。
ゴールデンウィーク中も徹や啓人とは会って話をすることもあって、相変わらずイジられることもあるのだけど、以前のような孤独感は不思議となくなったように思う。
そういやこいつらはかっちゃん転校の真実をしってるのかな…まあいっか、それはおいおいで。
ゴールデンウィーク最終日は早くも夏の到来を思わせる日射しの強い1日になった。
僕は普段行ってるスーパーより1駅分先のスーパーまで足を運び、1週間分の食料を買うと、帰り道にくぬぎ公園へと吸い込まれていった。
いつものベンチに腰掛け、雲ひとつない空を見て、空に青い海が広がってるなーなんて思いながらふと視線を下にやると、2週間ほど前に発見した、さなぎだった蝶が今まさに羽を広げて飛び立とうとしているところだった。
どこに向かうかなんて分からない。
決まってなんかないかもしれない。
ただ今飛び立つことだけに必死な姿。
僕は地面に着いてる足に少し力を入れた。
こいつが飛び立ったら、オレも…。
終わり
子供以上大人未満 遊憂也 @YouKid
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