第9話 真実②
翌日、僕は早く大学に行きたい衝動に駆られながら急いで身支度を済ませた。
3年以上まともに勉学に励んでこなかったあの僕が、単位を取るためだけに最低限の出席しかしてなかったあの僕が、急いで大学に行こうとしている。
正確には大学に行きたいのではない。
どうしても確認しておかなければいけないことがあるのだ。
食堂に呼び出しておいた夢は先に来て待っていた。
「何よ、話って?」
「夢、かっちゃ…じゃない、華也子、成田華也子知ってる?」
「え、ええ…でも何で晴が…」
「小学校の同級生!!でもアイツ転校していって、その後どうなったのか知りたいんだ!!」
夢の困惑をよそに僕は身を乗り出してまくしたてるように問い詰めた。
「確かに華也子は私の小学校に転校してきたけど、だから何でそれを晴が!?」
僕は夢の疑問を抑えつけるように彼女をジッと見た。
「まあ、いいわ…。」
夢はあきらめたように話し始めた。
「これは知ってるのかな…華也子、お父さんが仕事で失敗したかなんかで家を出ていったきり帰ってこなくなって、それでお母さんと一緒に私のいる街に来たの。」
ここまでは僕が健ちゃんだったときに聞いた話と同じだ。
「その後中学校までは一緒だったわ。転校してきたばかりの頃は少し暗い感じだったけど徐々に明るくなってきて、おじいちゃん、おばあちゃんとはよく出掛けてたみたいね。お母さんは仕事で忙しそうだったけど。」
「中学まではって…その後は?高校は別だったの?」
引き続き質問攻めの僕に対して夢は冷静に返してきた。
「順番に話すから急がないの。
お母さんに負担を掛けたくないってことで高校には行かなかったわ。中学卒業後すぐに隣町の旅館で働き出したの。でも1年ぐらいだったわね。先輩従業員からのイジメでね、すぐに辞めてたわ。その直後ぐらいかしら…」
夢が何か重大なことを言いそうだったので僕は黙って聞いていた。
「お母さんがね…亡くなったの…過労だか病気だか、詳しくは聞いてないけど。」
おばさんが…小学生時代、かっちゃんの家に遊びに行ったときはいつも笑顔で迎えてくれて、たまに一緒にゲームもしたあのおばさんが…。
実は身近な人が死んでいたことを今さら知り、僕は引き続き何も言えなくなっていた。
「まあ、でも今はそれなりに元気にやってるわ。旅館を辞めた後もわりとすぐに建設会社の事務として働きだして今も続けてるわ。」
ここで僕はようやく冷静になって再び口を開いた。
「今も?夢は今でも華也子と会ってるの?」
「そんなに頻繁にではないけどね。あんたたちの話が出たこともあったわ。お互い共通の知り合いだってことで驚いたけど。心配してたわよ、あんたの現状を聞いて。あの子早くから厳しい現実を突き付けられてきてるから…私たち学生よりよっぽど…。」
「オレのこと…やっぱりそうか!おかしいと思ったんだ…サンキュー夢!オレ帰るわ。」
僕は立ち上がってすぐにその場を去った。
「ちょっ!急になに…さては…気づいたな。」
食堂を出て、中庭を突っ切って学外へ出ようとした辺りで徹に遭遇した。
「ヨッ!そんな急いで、ようやく人生に焦りだしたか?」
からかうように話しかけてくる徹を横目に、
「徹、オレ大丈夫だよ!」
そう言ってそのまま走り去った。
「何が?どうしたんだアイツ…。」
徹はキョトンとした顔で僕を見送った。
そのまま僕は走って駅に向かい、電車に乗ってからも、
「やっぱりそうだ…やっぱりそうだ…おかしいと思ったんだ…。」
そんなことを口ずさみながらソワソワしていた。
「アイツ…思ったより近くにいたんだ…。
アイツ…なんであんなウソついたんだ…。」
電車を降りてからも僕は走っていた。
早く着いたからといって今いるかは分からないけれど。
僕はそれでも急いで向かっていた。
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