第3話 唯子ちゃん……!
「…………」
「…………」
どうしましょう。気まずいです。
とりあえず部屋の中に入りましたが、会話が一向に始まらず沈黙が続いてしまっています。さっきのことを考えると、どうしても声を掛けることができません。
ですが、このままこうしていても何も変わらないのはわかっています。こういうときこそ、勇気を出さなければいけません。ずっと眠っていたのでエネルギーはたっぷり溜まっています。
私は意を決し、少し離れた場所に座っている唯子ちゃんに話しかけました。まずは当たり障りのないことを尋ねようと思いました。
「あの、授業は大丈夫なんですか……?」
「今日は自主休講だから大丈夫!」
「そうですか……」
「うんうん! そうなんだよね!」
普段であれば、勝手に休講にしないでくださいなどと返せると思うのですが、わたしも一週間同じことをしてしまっているので何も返せませんでした。
「あと、さっきの忘れていいから! なんかごめんね!」
挙句、こんなことをわざわざ言わせてしまいました。必死に声も顔も明るく取り繕っているのが丸わかりです。わたしは唯子ちゃんにこんな悲しい顔をさせるつもりはありませんでした。ですが一体どうすれば……そうです。
「あの……この間新作ゾンビ映画のBlu-ray買ったんですけど、一緒に観ませんか?」
「ゾンビはマジ無理!」
ひとまず一緒にゾンビ映画を観て諸々の感情や出来事を全てリセットしようと思ったのですが、一瞬で拒絶されてしまいました。
どうしてみなさんゾンビが嫌いなんでしょうか……。お姉ちゃんにも「あんなの好きなんて理解に苦しむわ」なんて言われてしまいましたし……。
「どうして嫌いなんですか?」
「だってグロいしキモイし意味不明だし!」
「それがいいんじゃないですか!」
「なんで!?」
「だからこそ魅力的なんですよ!」
「だからそれのどこが魅力的なの!?」
「色々ありますけど、現実が壊れる感じとかが魅力的です」
「怖いよ!」
「怖いからこそいいんじゃないですか!」
「そうじゃなくて!」
「とにかくゾンビは最高なんですよ!」
「やっぱり怖いよ!」
ついついわたしも熱が入ってしまいましたが、その熱のおかげで部屋の空気が変わった感じがしました。そうしてお互い息を切らして見つめ合った後「あはははは」と笑い合いました。
「ははは……。やっぱりあたし、優里が好き」
唯子ちゃんは笑いながら目を拭い、改めて私に言いました。その表情は、作ったものではありませんでした。
「ありがとうございます。嬉しいです」
私は自然と口が動いていました。悲しみの感情がどこかへ行った今だからこそ、そう言えたのだと思います。友情だと思っていたものが愛情だったとしても、わたしにとっての唯子ちゃんは何も変わりません。それに気づきました。
「優里……ありがと……」
「ど、どうしたんですか!?」
笑ったと思った唯子ちゃんが、顔を床に向けて突然大粒の涙を流し始めてしまったので、慌てて駆け寄りました。
「優里ぃ!」
唯子ちゃんは、わたしの顔を見たと思った途端――――
わたしに、キスをしました。
唇から柔くて感触と温かい熱が伝わってきます。近すぎてはっきりとは見えませんが、瞳孔が開いた唯子ちゃんの目は、わたしの顔を映していました。
唇を塞がれたまま、わたしは押し倒されました。そしてパジャマの下から少し冷たい感触が入ってきて、わたしの胸に辿り着きました。同時に、唇が解放されました。わたしは咄嗟に声を出しました。
「唯子ちゃん……!」
「優里のおっぱい、やっぱりおっきくて、すっごく柔らかい……!」
「ま、待ってください唯子ちゃん! いきなりそんな……!」
「優里は……あたしのこと……嫌い?」
「好きです……! 大好きです……!」
「なら、よかった……! ほんとに……嬉しい……!」
唯子ちゃんはさらにわたしの胸を激しく触り始めました。全身が震え上がるようなゾクっとした感覚のせいで、何も考えることができません。
「ねぇ……優里……付き合って……」
「ゆ、唯子ちゃん……」
「答えて……」
わたしは上半身のパジャマを脱がされ、まもなく下着も脱がされました。唯子ちゃんと、付き合う……? そんなこと…………。
「わたし…………どうすれば……」
「はいって言えば、いいんだよ……」
「はい……」
「やった……。これであたしたち、恋人だね……」
「こい、びと……」
わたしの胸の間に、唯子ちゃんは頭をうずめてきました。髪が肌に触れて、すごくくすぐったいです。
「うっ……」
「我慢しないで……」
「ひっ……」
もう我慢は、できそうにありませんでした。既に身体に力が入らなくなってきています。
「今日は、帰らないよ……あの男のことなんか、忘れさせてあげる……」
炎のように顔を紅潮させた唯子ちゃんは上半身を起こすと、わたしの下半身の衣服も脱がしました。
そうしてわたしたちはそのまま、翌朝までこうしていました。どのようなことをしたのかは、もう覚えていませんでした。
覚えていたのは、高鳴る鼓動と、唯子ちゃんが漏らす艶めかしい吐息の音だけでした。
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