名家の当主は口が強い

「いやいや、俺なんかに護衛職なんて務まらないですよ」


 そうだよ。体育のテストだってそんなに良いわけじゃないのに。一応バイトとかしてるし運動部だった時期もあるから平均よりかは上だけどそんな護衛とかできるど鍛えてないですって。


「別に護衛をしてくれと言ったわけじゃないよ。名目上は護衛職として雇うが娘のそばにいて欲しいだけだ。別に体を使うようなことは無いとおもっている。まぁ、あの子の我儘について行くだけの体力は必要だがね」


 そこまで言われるってお嬢様の我儘ってどんなレベルなんだよ……


「なぜ僕だけを怖がらないか不思議ですし、まだ受けると決めた訳じゃないですがどういうことをすればいいんですか?」


「まずそれについて話さなければだったね。まぁ、本当にあの子のそばに居てくれるだけでいいんだ。学校とその登下校、あとは1週間に1度くらい外に連れ出して欲しい」


 学校……?


「あの子、夏奈さん?聖光高校なんですか?」


 じゃないと一緒になんて出来ないはず。


「いや、違うよ。茶水学院の高等科だよ。今は2年だね。君は聖光高校の2年生だろ?同学年なのだから登校は一緒にできるだろう」


 茶水学院って中学から大学まで全国に名の知れた名門女子校じゃないか。俺たち聖光なんていう自称進学校とは違って。


 というかそうじゃなくて。


「聖光と茶水めっちゃ遠いじゃないですか。徒歩でも一時間くらい。自転車使っても三十分くらいかかっちゃう。あの子に早く登校させるんですか?その後俺が聖光まで急いでいくって感じですかね?」


「良く片道にかかる時間を知っているね」


 にこにこしながら言ってくる。


 ……だって賢くて可愛い子が多いっていう女子校が近くにあるなら行くのにどれくらいかかるかとか調べちゃうもんでしょ男ならさ!!


「まぁ、それはあとから問い詰めるとして。なんでその発想しか出てこないんだい?転校という手段があるだろうに」


 嫌な予感がした。


「あ、あぁ、聖光にあの子を転校させるんですか?でも共学で男の方が多いあの学校に入れても大丈夫なんですか?」


 そう言うと当主さんは首を振る。


「そんなわけが無いだろうに。君が転校するんだよ?」


 え?マジで?だってあそこは、


「茶水って女子校じゃないんですか……?」


「あぁ、知らなかったのかい?ちょうど今年共学になったんだよ。共学になったばかりで各部の1年生しか男子はいないし学年で25人程度しか居ないがね。良かったね雪奈君。高等部2学年の中で唯一の男子だ!!」


「お断りさせていただきます」


 頭を下げ、出ていこうとする。


「君にとってもいい話だと思ったのだがね」


 後ろから声がかかる。


「別に女の子に囲まれることがとかじゃないよ。斎藤くんと言えばいいかな。あの子まだ未成年だから特に大きな罰とか与えられなかったんだよね。だから3ヶ月過ぎで帰ってくるはずなんだ。三ヶ月程度休んだとしても留年には恐らくならない。つまり卒業までは同じクラスで学校なんだよ。そして自分が罰を与えられる原因となったやつが同じクラスに居たなら。そしてあの子は元からいじめっ子なのだろう?」


 そう言って来た。


「それはなんですか。脅しですか?」


「んん。違うよ。ただの仮定だ。ただね、仮定といえどほぼ確実であろう未来のことだよ。君も分かっているのだろう?」


 ……実際それは俺が家で考えていたことでもあったので容易に想像が着く。


「はぁ……親と相談させてもらいます。茶水学院の方は大丈夫なんですか?」


「うむ。一応私の知り合いがあそこの経営会社の社長でね。1人ねじ込むのは簡単だよ。別に学力が低い訳でも無かったからまずそこまで反対されなかったからね」


 もうそこまで根回し済みかよ。元から俺に選択肢は無かったんだろうな。


 ま、いいや。あいつらからも離れれて勉学に集中できるって考えれば悪いことではないだろう。うちの学校よりも賢いのだし。



 そう、俺はこの時考えていた。


 勉学などに集中出来る環境を作れないなどとは考えていなかったのだった……


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