最強の相棒は誰だ?!

NAOTO

第1話

アルドは故郷、バルオキーの武器屋を出て余りの暖かな光と心地好い風に両腕を天高く上げ伸びをした。

つられたのか、足元にいるヴァルヲも前足を前に出し背伸びをする。

まるで2匹の猫が日向ぼっこでもしているかのような光景に、フィーネは口元を綻ばせた。

今日は1日暇を作った。

仲間たちも皆、それぞれの生活がある。

その中で快くアルドの冒険に力を貸してくれているのだ。それは勿論、アルドの人柄あっての事だが。

だからという訳ではないが、急ぎの冒険が無い限りは普段の生活に皆を戻してゆく。

アルドやフィーネ、また今は大所帯になってしまったがギルドナ達も休みは必要なのだ。

各々やる事がある。

やらねばならぬ事がある。

それは、共に世界と時を駆けるヴァルヲにも大事な事なのだ。

くあっ、と大きく口を開けて欠伸を零せば今度はアルドがつられて欠伸をした。

フィーネはだらしが無いと口先を尖らせたが、直ぐにこの天気なら仕方が無いと切り替えた様子だ。

ヴァルヲは手先を舐めると直ぐに顔を拭った。

「雨でも降るのかな?」

フィーネが心配そうに空を見上げる。

昔から猫が顔を洗うと雨が降ると言われているが、空気中の水蒸気が濃くなり水気を嫌う猫はそれを拭うのだ。

「さっき猫マダムにこっそりおやつを貰ってたみたいだから、証拠隠滅じゃないか?」

アルドがにやりとして、口の端を指先で指した。フィーネがアルドの視線の先、ヴァルヲの口元を見やると確かに何かの食べかすが付いているようだ。

全く見当違いの方向を拭っていたヴァルヲはなぜ2人が笑っているのか検討もつかなかったが、久しぶりに見る2人の幸せそうな顔を見たら幸せな気持ちになった。満腹だし、何より貰えたおやつはとても美味しかった。

「あれ、アルド!」

少し離れた先からあどけない少女の声がした。

フィーネも兄の名を呼ぶ人物は誰なのかと一緒に声のした方向へと顔を向ける。

「ビヴェットじゃないか。どうしたんだ?」

アルドがこんな所で会うなんて珍しいと微笑んだ。

彼女もまた旅を手伝ってくれる仲間の1人だ。

「うん、猫友達に会いにきたんだ。その帰りに、猫マダムにも挨拶しとこうかと思って。」

ビヴェットはそう言うとルミロを抱き上げた。一瞬嫌そうな顔をしたが、諦めて脱力している。

ぶらんと力なく投げ出される脚。そんな様を見てヴァルヲは心底哀れんだ。

この飼い主である兄妹は基本嫌がる事はしないし、しつこくもしない。

たまに寝ていると肉球をつんつんしてきたり腹に顔を埋められる事はあれど、優しく撫でてくれるし嫌がれば直ぐに止めてくれる。

心を全て通わせられる訳では無いが、心地好い存在だ。

特にアルドには不思議な雰囲気を感じている。何処か似た様な、懐かしいような。そんな気配を。

そして、ちょっとおっちょこちょいなアルドを手助けしてやるのが自分の使命だとも感じている。

唯一無二の相棒である自負を抱きながら、ヴァルヲはアルドの足元に擦り寄った。

「はは、なんだヴァルヲ。甘えてるのか?」

珍しい事もあるものだとアルドが笑ってヴァルヲの背を優しく撫でる。

その横でフィーネとビヴェットは年頃も近いせいかすぐに打ち解けて挨拶を交わしていた。

「初めまして!フィーネって言うんだよ。アナタのお名前は?」

「ボクはルミロ、ビヴェットの相棒だにゃー!」

ビヴェットはルミロの片手を力任せに掴むと上に振りかざした。

相変わらず抵抗もせずにされるがままのルミロは虚ろな目をしている。

フィーネはそんなルミロを大人しい猫さんだね!と言いながら楽しそうに笑った。

「ふふ、可愛い。わたし、猫大好き!」

「そうでしょ?ボクも猫大好きだよ。特にルミロは小さい頃から一緒だし、最強の相棒なんだ。」

「まるでお兄ちゃんとヴァルヲみたいね。」

鼻高々と自慢げに語るビヴェットを微笑ましく見やりながら、フィーネはころころと鈴の鳴るような可愛らしい声で笑った。

途端、ビヴェットがむっと唇を突き出した。

「ボクとルミロは特別だよ!なんたって世界一可愛い最強最高の相棒なんだから!」

フィーネも売り言葉に買い言葉で、眉を八の字にしながらも応戦する。

「う、ウチのヴァルヲだって、世界一可愛いもの!」

2人の剣幕な姿をアルドはオロオロとしながら見ていた。

うっかり「猫なら・・・というか、動物は皆可愛いよ。」と言おうものなら「黙ってて!」とまくし立てられる。

あまりの勢いにアルド・ヴァルヲ・ルミロの男3匹(?)はしゅんと項垂れるしかなく。

うら若き乙女達はウチの子のココが可愛い最高だと言いヒートアップして行く。

「聞き捨てなりませんね。」

突如現れた声のした方向を全員で見遣ると、そこには忍び装束に身を包んだくのいちーーーツバメがスズメと仁王立ちしていた。

「スズメこそ至高の存在。最強の相棒に違いありません。」

「つ、ツバメ・・・」

アルドがまたややこしいのが出て来たと言わんばかりに項垂れた。

案の定、フィーネとビヴェットは頬をふくらませて今にも噴火しそうな程肩を震わせている。

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最強の相棒は誰だ?! NAOTO @naoto_fugri

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