終章 空は薄明に染まり、人々は明日に進む

神のいない国

 聖都での騒乱そうらんの夜から数日。

 聖王は、すべての国民に向けてお触れをだした。


 ナスル神が目覚めたこと。

 ナスル神は、星守ラスアーとともに、天に上ったこと。


 これから御二人は、天から我々国民を、見守ってくださっていること。


 我々アスクレフィオス聖王国の国民は、これからも、ザビクの玉座の、星守ラスアーの教えを守り続けること。


 これからも、ナスル神への感謝の祈りを、忘れないこと。


 眠り巫女は、今代の巫女を最後の巫女とすること。

 最後の眠り姫は、ナスル神と共に天に上ったと、発表された。


 最後に。

 魔女が、ナスル神が天に上る際に、死んだと。


 処刑されたとも、誰が殺したとも、詳細しょうさいは明らかにされなかっが、魔女は確かに死んだ、とだけ報らされた。



 聖王の発表に、国中が驚き、混乱した。

 聖都や、近隣きんりんの者たちは、轟音ごうおんや爆発、光のうずなど、いろいろな不思議な光景を目にしていたので、比較的納得できたようだったが、他の地域の人々にしたら、晴天の霹靂へきれきだ。


 どんなに聖王が人々の信を得ていたとしても、何千年と続いた信仰のあり方が突然変わるということは、やはり容易なことではなかった。


 ザビクの玉座幹部たちが動揺すれば、その下の立場にある聖職者たちが困惑こんわくし、そして宗教国家であるがために、政治に携わる者たちも混乱した。


 指導者が迷えば、導かれてきた国民たちも迷う。


 結果、国中が数年にわたって不安定な情勢になった。


 だが、聖王は、兄弟神に立てた誓いを守りぬいた。

 そんな苦境にあっても、諦めず、人々を見捨てず、その足で国中を巡り、一人ひとりと向き合い、人々を導いた。



 その甲斐かいもあって、国の混乱は、最小限に食い止められた。



 以前と全く変わらぬようにはいかないが、人々はそれぞれに神への依存をやめ、自分たちで歩きはじめようとしていた。


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