天使が、人へと還るとき
ソルが
外は暗い夜だ。昼に外側から陽光に照らされていたら、さぞ美しいだろう。
だが今も、室内の四方に置かれたランプがぼんやりと照らしていて、これはこれで幻想的な美しさだった。
それが見下ろす、中央の部分。
丸い
その上に設置された、ガラスの
ソルは、その棺に駆け寄った。
棺の中には、血色を失い、どこか
両手を胸の前で組んで。
棺の中で眠る、ララと同じ
ただ、ララとはちがい、明らかにその身体には、もう血が流れていないのは明らかだった。
ガラスの棺の中、眠る青年。この、美しき
彼は己の身体と生命を
そして、その夢の中に、ララの魂も閉じ込められている。
いや、正しくは。
ララの魂は、夢の世界の
この仕組は、ナイルスたち神の世界から、地上にナスル神を追いかけてきた神の一人からラスアーが聞き出したものだと言う。
その神は、ラスアーに捕らえられて、夢の世界の燃料にされたのだと聞いた。初代の、眠り巫女として。
「ナイルス、ダナブ……今、終わらせるからな」
ソルはそうつぶやくと、ガラスの棺に棒を突き立てた。
以前、ダナブが来たときは、このガラスの棺には触れることすら叶わなかった。
ラスアーが、棺に、神に連なる者が触れたとき、弾き返すよう、対神の結界を張っていたからだ。
この役目は、ただの人間であるソルでなくてはできないことなのだ。
棒の先端に渦巻く炎が、ガラスを溶かし始める。
そして、ナイルスの炎がガラスの表面に穴を
そしてそこからヒビが走り、棺はもろくも美しい音を立てて、砕け散った。
ソルは首から鎖を外し、その先に着いていたシリンダーのコルクの
「アンタも、大切なものがあったんだろうな……けど」
乾ききった屍蝋の
「返してもらうぜ」
シリンダーを
ナイルスが種を撒いた果実で、ダナブが作った、呪いの薬。
世界を
「……!」
ラスアーの、戦天使と呼ばれた屍体が、白く光る。
ソルが眩しさに手で顔を覆う。
その手の向こうに、サラサラと砂になっていくラスアーの身体が見えた。
最後、わずかに小さな骨が、胸があった場所に転がった。
それは、右手の小指の先の、骨だった。
「今まで……お疲れさま。おやすみ、天使」
ソルは、その骨をそっと
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